「ドン・カルロ」:史実と戯曲とオペラ [オペラ(音源・映像・その他)]
さて、「ドン・カルロ」祭の第3弾です(笑)今回も長いです。お時間のあるときにどうぞ。
第1弾:オペラ「ドン・カルロス」
第2弾:「ドン・カルロ」と「ドン・カルロス」
今回は宙ぶらりんで終わっていた「史実」と「戯曲・オペラ」の比較をもう少し突っ込んでしてみようと思います。
まず史実について。第1弾の記事でも少し触れましたが、「ドン・カルロ」の主要登場人物はポーザ卿ロドリーゴ以外は全て実在人物です。とはいえ、シラーが戯曲にする時に設定を大幅に変えています。この作品は「ドン・カルロ」といいつつ実質フェリペ2世←の治世の話なので、ここでは彼を中心にまとめてみました。史実なので、名前の表記はスペイン語発音に沿ったカタカナ表記にしています。(フェリペ→フィリポ、カルロス→カルロ、イサベル→エリザベッタ) |
そして戯曲とオペラ。シラーの戯曲(とオペラ比較)については、既に素晴らしい記事がいくつもありますのでそちらをご紹介しておきます。(といって手抜き^_^:)
りょーさんの記事 「続行 ドン・カルロ祭(笑)」
なつさんの記事 「岩波文庫版 『ドン・カルロス』」
YUKIさんの記事 「オペラと原作」 「オペラと原作2」
さて、この素晴らしい記事の数々を参考にさせていただいて改めてオペラ化の経緯を見てみると、ドイツ人が書いたスペインの歴史物語をフランス人がオペラ脚本にしてイタリア人が作曲した訳です。ああ、これだけでややこしい(笑)このあたりの話は簡潔にまとめられていてとっても役に立つ「音楽サロン」のドン・カルロのページへどうぞ。シラーの戯曲からの変更点は、あまり多くないというより、なかなか上手くオペラ化されているように思います。(少なくともトマの「ハムレット」よりは良い出来です)戯曲を読んでいない私が現在知る限りの大きな変更点は
・カルロとエリザベッタの出会いのシーンの創作(フォンテーヌブローの森のシーン)
・実際のカルロ5世(カール5世)の霊の登場
・フィリポとエボリの悲嘆のアリアの追加
くらいですか。度重なる改訂によって追加されたり削られたり戻ったりしているので、一概にここが違う!と言えない部分もあります。第2弾記事のコメント欄で話題になった「だからこれは第何版?」という話については、「オペラ御殿」さんの素晴らしいページ「『ドン・カルロ』20年の苦闘」へどうぞ。(こちらのページによると、パッパーノの指揮した公演はパリ初演版そのものではなく、「グランド・オペラ」として最良と思われる形にした改訂版というのが正しいようです。それでも、現在の録音の中で一番初演に近いというのも確かです。)
Sardanapalusさん、初めておじゃまさせていただきます!
シラーは史実をうまく材料にし、ヴェルディは戯曲の人物間の複雑なやりとりを音楽にうまくまとめた、という感じですね。
原作にフォンテンブローの場面がないのは、意外でした。
一昨年、ヴェルディ協会の講演でドナルド・キーン氏が、フォンテンブローで民衆のために自己犠牲の決意をするエリザベッタの場面があってこそ、完全版になるとおっしゃていました。
それと、私はこのオペラは、フィリッポと宗教裁判長のバス対決もかなり重要だと思います。
後者も声に力がある人でないと、オペラがしまらない。
王権と宗教権力のせめぎあい、などという固い話を聴かせてしまうヴェルディはやはり偉大だな、と思う次第です。
まだまだ語りつくせない、ほんとうに好きな作品です。
また遊びにきますねー (^o^)丿
by なつ (2005-11-13 22:30)
よくこれだけ探されましたね!拍手!
フィリペ2世のページは以前にも見ていましたが、インタビューは読んでませんでした(笑)笑った笑った・・・
「ドン・カルロ」20年の苦闘、のページにもビックリしました。なんといっても改訂一覧表はものすごいです^^;
ヴェルディ本人がこれだけ改訂して楽しんで(?)いたことを考えると、演出や歌手に合わせたいろんな版で上演するのもいいじゃないかと思えますね。どこをどう演奏するか、ドキドキして観るのも楽しいと思います。
肖像画も並べてみると面白いですね。
カルロスのお母様は産褥で亡くなったんですね?戯曲の台詞の中に、
「世にわたしほど母の運の拙い者はあるまい。この世の光に生れ出て、最初にわたしのした事が、まず母親殺しであったのじゃ。」というのがあります。
ところで、よく見かけるこのエボリの絵の目隠しは何なのですか?
by (2005-11-13 22:54)
まだまだ祭りは続くですね。
>エボリの絵の目隠しは何なのですか?
実際にはどうかわかりませんが、肖像画が黒い眼帯をしているので、エボリさんは隻眼ということになっているようです。
独眼竜伊達政宗とか 丹下左膳とか有名ですが、けっこうカッコイイと思われていますよね。
この時代もしかしたら、本当は見えていて、おしゃれで眼帯しているということもあるんでしたかしら?
目病み女になんとかといいますし。
by keyaki (2005-11-13 23:37)
なつさん>
ようこそいらっしゃいませ!まだ祭は続けますので、いつでも遊びに来てください♪
>原作にフォンテンブローの場面がないのは、意外
私も、りょーさんの記事を読むまでシラーが作ったシーンだと思ってました!
>フォンテンブローで民衆のために自己犠牲の決意をするエリザベッタ
そうそう、ここはパッパーノの公演の演出が強く印象に残っています。ここがあると、ロドリーゴを介して会いに来たカルロをはねつけるシーンも重さを増しますよね。
>フィリッポと宗教裁判長のバス対決
>王権と宗教権力のせめぎあい
おっと、そうそう、この重要な部分を書き忘れてますね。たとえどんなに疎ましく思っていても史実のフェリペが大審問官に暴言を吐くことはありえないので、ここも創作部分ですね。重たくて扱いにくい話題に、あんなにカッコイイ音楽をつけたヴェルディに拍手!です。
by Sardanapalus (2005-11-14 04:56)
りょーさん>
>よくこれだけ
わはは、好きなものですから(笑)歴史やってると、何でも資料探しから始まるのでこういうことは慣れっこなんです。
>インタビュー
>笑った笑った
でしょ?(笑)好きなものとか、父は偉大すぎるから自分は自分なりに、っていう発言とかちょっと可愛いですよね~。
>「ドン・カルロ」20年の苦闘
>改訂一覧表はものすごい
このページは本当に凄いです。この方は私みたいにミーハーにファンなのではなく、真剣に改訂について研究していらっしゃるようですね。ただただ感動してしまいます。
>肖像画も並べてみると面白いですね。
今回取り上げたカルロスはまだ少年ですが、もっと大きくなってからの絵はフェリペそっくりですよ(笑)ここの親子はカール5世から3代そっくりですね。あ、でもカルロの異母弟はもっと丸々としているけど(笑)
>カルロスのお母様は産褥で亡くなったんですね?
そうです。戯曲の抜粋ありがとうございます。おお、不幸な運命でござるな、カルロス殿(笑)シラーはやっぱりそういうところを強調しているんですね。
>エボリの絵の目隠しは何なのですか?
keyakiさんも仰ってますが、彼女は隻眼だったのではないでしょうか。彼女に関する資料が見つからないので良く分かりません。ごめんなさい。
by Sardanapalus (2005-11-14 05:09)
keyakiさん>
はい、まだ続きますよ!(笑)
>この時代もしかしたら、本当は見えていて、おしゃれで眼帯しているということもあるんでしたかしら?
どうでしたでしょう?私もスペインはあまり詳しくないので、おしゃれなのか実際に隻眼だったのか分からないです。肖像画を注文した時に、王の愛妾だったので少しかっこつけてみたのかも?(笑)
by Sardanapalus (2005-11-14 05:12)
調子に乗ってまたまたコメントします。
いつもながらSardanapalusさんの記事は、一つの小さなエッセイかのような力作で、尊敬してしまいます。
ドン・カルロス、私は観た事がないのですが、何せ私の大学の卒業論文は「メアリー1世の反宗教改革時のイングランド民衆の反応」について書いたはずなので(もう何年も前のことなので、恥ずかしながら書いた本人もあまり内容を覚えてませんが・・・)、急に興味が湧いて来ました(笑)。
今度機会を見つけて是非みてみたいです!
by stmargarets (2005-11-14 08:29)
stmargaretsさん>
>一つの小さなエッセイかのような力作
ありがとうございます~。頑張って書いているので褒めていただけると嬉しいです。好きなものには力が入りますよね!(笑)
>大学の卒業論文は「メアリー1世の反宗教改革時のイングランド民衆の反応」
おおおお!ということは、「ドン・カルロ(ス)」はフェリペつながりで必ず楽しめるオペラでしょう。他には、そのものずばりメアリー1世を題材にした「マリア・ストゥルダ」というドニゼッティのオペラもありますよ!こちらは私も見たことは無いのですが…。
by Sardanapalus (2005-11-14 13:00)
初めてコメントさせていただきます。《ドン・カルロ(ス)》の盛り上がり、
たくさん楽しませていただきました。個人的には、シャトレの《カルロス》
を映像で観るのが好きです。女には関心が無く、いとしいカルロスしか眼中
にないロドリーグや、実はみなが知っているエボリのエキセントリックさ
(ヴェールの唄のときのまわりの女官たちの当惑した表情!!)など、リュック・
ボンディの勝利というか、ほとんど芝居として楽しんでいます。あの舞台は
音だけで聴くと、やはりちょっと物足りないもので...。
仏語版は伊語版に較べると、やはり伝統でしょうか、かなり言葉にポイント
を置いているという印象があります。たとえば、王とポーザの対話で、ずっ
と誰に対してもvousで話しかけている王が、いつでも王妃に会って話す許可
を与えたあと、自分の心のうちをすべて彼にさらけ出したことを示すかのよ
うに、tu/toiに変わるのですよね。ここはなかなか感動的だと思います。で
すからGarde-toi de mon Inquisiteurが効いて来る...。ここで初めて人を信頼
した王の姿の背景には、『トニオ・クレーゲル』の中で、トニオが友人のハン
スに(ポーザに裏切られたと思って)「王様が泣くんだ!」と興奮して話した、シ
ラーの原作のフェリペの姿を感じることができます。
で、エボリのアイ・パッチです。
オペラの題材になった史実について書かれたDon Carlos and Company(Christopher
Morgan著 Oxford University Press)という本があります。その中には当然、
実在したエボリについての記述があるのですが、著者が疑問に思っているのは、
同時代人が彼女の美しさについては言及していても、アイ・パッチについては
言及していないこと。歴史家の中には、アイ・パッチは後世になって、彼女
を特徴づけるためにつけくわえられたのでは、という人もいるのだそうです。
しかし根拠が無いなら肖像画に描かれることもないわけで、子ども時代の狩り
でのけがが原因だの、斜視を隠すためだの、要はほんとうのことは何もわかっ
ていない、ということらしいですね。失礼しました〜。
P.S. 第二弾で助六さんが言及なさっているMatheson/BBCの録音は、PONTO
からCD4枚で出ています。ヴァンゾが歌うカルロスの抜粋付き。
by Bowles (2005-11-14 13:29)
Bowlesさん>
はじめまして!あちこちでお名前は拝見していました。ためになるコメントありがとうございます。
>シャトレの《カルロス》
>ほとんど芝居として楽しんでいます
そうそう!そうなんです!あの映像はオペラというより、芝居ですよね。音楽だけを純粋に聴きたいならイタリア語版でも構わないし、もっと隙の無い演奏もあると思うのですが、舞台芸術としてはやっぱりあの演出が好きです~。
>エボリのエキセントリックさ
そうそう、一人で盛り上がってるエボリを周囲の女官達が白い目で見てるときがありますよね(笑)こういった役の設定が細かいところもつい何度も見てしまう理由だったりします。
>エボリのアイ・パッチ
興味深い話をありがとうございます。王の愛妾にまでなった人が隻眼かなぁ?と思うのですが、あの肖像画は確かに同時代のものなんですよね?美しい顔全体をじっくりと見れるのはフェリペだけよ、とかいう意思表示かしら。あまり資料も無くて謎の人らしいですね。
>Matheson/BBCの録音は、PONTOからCD4枚
情報ありがとうございます。これはまたお金のやりくりをしなくては(笑)
by Sardanapalus (2005-11-14 20:37)
おぉ、メアリー1世を題材にしたオペラなんてあるんですか?スコットランド女王メアリーならまだしも、メアリー1世で何に焦点を当ててオペラにするのだろう??俄然興味が湧いてきました。今度チェックしてみます。
ところでSardanapalusさんはビリー・バッド、何日に行かれますか?
by stmargarets (2005-11-15 09:15)
>スコットランド女王メアリーならまだしも、メアリー1世で何に焦点を当ててオペラにするのだろう??
わーごめんなさい。そうだ、スコットランド女王の方でした。マリア・ストゥルダはメアリー・ステュアートのイタリア語読みです。間違えました!う~ん、メアリー1世でオペラ、だったらやっぱりフェリペ2世(当時は皇太子ですが)との恋愛とか、その後の反宗教改革とか?(笑)ドニゼッティのイギリス王室オペラは他にも「アンナ・ボレーナ」(アン・ブーリンのこと)があります。どちらもかすっているのにメアリー1世には当たりませんね(^_^;)
>ビリー・バッド
私は3日と14日に行くつもりです。
by Sardanapalus (2005-11-15 09:37)
またシツコク、エボリねたです(^_^)。
実在のエボリは由緒正しきメンドーサ家に1540年に生まれ、1553年
といいますから彼女が13歳の時に、王自身がルイ・ゴメスとの結婚を
アレンジしています。なんと彼女は、1559年からゴメスの死ぬ1573年
までの間に、9人もの子どもをなしています!!噂では、いちばん年上の子
は、金髪でハプスブルクの顔つき(要するに、ハプスブルクの顎と垂れ
気味の唇、ですね)なので、王の子とか。同時代の記録では「美し」くは
あっても、なかなか性格が悪かったようで...。夫の死後、一度は修道院に
入ったものの、まわりとうまくいくわけもなく、再び宮廷に戻り、王の寵
臣の一人と関係を持つことになるのですが、この男がまたなかなかのくわ
せもので、殺人事件がきっかけで、結局国外逃亡してしまいます。エボリ
もこれに連座という形で、自宅に軟禁されたまま一生を終えたのだそうで
す。
>あの肖像画は確かに同時代のものなんですよね?
アイ・パッチだけを後世に描き加えた、という説もあるそうです。
by Bowles (2005-11-15 09:42)
遅くなりましたがトラバ&リンク有難うございます。m(__)m
史実ではフェリーぺ2世がエリザベートと結婚したのはまだ30歳代でしたねぇ。
戯曲では確かもう少し高齢だったと思いますが。。。(^^;)
確か史実のドン・カルロスはちょっと精神的に云々・・・って言うようにも解説されている事もありますねぇ。(^^;)
by YUKI (2005-11-15 17:52)
>>アイ・パッチ
わたしのしょーもないボヤキにみなさんで答えを教えてくださってありがとうございます!このエボリ公女、かなり興味深い人物なんですねぇ!
by (2005-11-16 00:37)
Bowlesさん>
>エボリねた
ありがとうございます!彼女は何と子沢山だったのですね~。
>なかなか性格が悪かったようで
シャトレ座の演出を見た後だとものすごく納得してしまいます(笑)
>肖像画
>アイ・パッチだけを後世に描き加えた、という説
ふむふむ。本当に書き加えたのかどうか、鑑定して欲しいですね。
YUKIさん>
お忙しい中コメントありがとうございます。フェリペ2世が若々しいと、あのオペラや戯曲の「王の悲しみ」の部分が薄れてしまうと思うので、まあこれは仕方ないことでしょうけどね~。カルロ(ス)がちょっと精神的に変だったというのは、狂人の祖母を持つ従兄妹同士の近親婚で生まれた子供だからかな?と思いますが。
りょーさん>
りょーさんのお陰で私もBowlesさんに色々と教えてもらいました~♪ありがとうございます。実はこの登場人物の中では、エボリさんが一番インタビューしてみたい人です(笑)
by Sardanapalus (2005-11-16 02:44)
そうですか。ストゥルダはテューダーのイタリア語読みかと勝手に解釈してました(笑)。メアリー・ステュアートならオペラになりそうですよね。今度探して見ます。
ビリー・バッドは私は違う日にとってしまいました。同じ日だったらお会いできるかなと思ったのですが、残念。
by stmargarets (2005-11-16 23:24)
>ストゥルダはテューダーのイタリア語読みかと
お騒がせしてごめんなさい(^_^;)でも、それなりに楽しめるオペラだそうですよ。
>ビリー・バッドは私は違う日
それは残念です。ブリテンは苦手なので、1度でいいかなと思っていたら友人が初日に行くというので2日行くことにした訳なんですが、もし気に入ったらもう一度くらいは安い席で行くかも知れません。多分そんなことは無いですけど(笑)
by Sardanapalus (2005-11-17 06:51)