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オペラ「仮面舞踏会」 [オペラ(実演)]

只今コヴェント・ガーデンで公演中のヴェルディ作「仮面舞踏会(Un Ballo in Maschera)」に行ってきました。今回は再演なのですが、それでもリッカルドにリチャード・マージソン(Richard Margison)、レナートにディミトリ・ホロストフスキー(Dmitri Hvorostovsky)、アメリアにニナ・シュテンメ(Nina Stemme)と、プレミア時→に劣らない豪華キャストです。

あらすじ:ボストン総督のリッカルドは、クレオーリョ(アメリカ生まれの白人または白人とネイティブ・アメリカン、黒人の混血)の腹心の部下レナートの妻アメリアと恋に落ちてしまう。そうとは知らずにリッカルドに忠義を誓うレナートは、リッカルドの暗殺計画があることを警告するが、真剣に考慮しないリッカルドは世間で評判の黒人占い師ウルリカに興味を持ち、庶民に変装して自分の運命を聞きに行く。ウルリカは「次にリッカルドが握手する親友に殺される」という不吉な予言をするが、リッカルドはそれなら、とレナートと握手をし、「これで予言は実現しない」と断言する。その夜、アメリアが密かに相談したウルリカに言われた通り、夜中に処刑場に生えている薬草を採りにやってくると、その会話を立ち聞きしていたリッカルドが追いかけてきて、二人は愛を語り合う。と、そこにリッカルドの暗殺計画を耳にしたレナートが駆けつけ、リッカルドと服を取り替えて身代わりになる。「この女性の顔を見ず、声もかけずに街の入り口まで送り届けてほしい」というリッカルドの願いを聞き入れたレナートだが、リッカルドが去った後、暗殺者の一団に囲まれてしまう。暗殺者の一人がむりやりアメリアのベールをはがし、レナートはアメリアとリッカルドの両人に裏切られたとショックを受ける。その後アメリアを殺そうとしたレナートだが、「そのまえに子供に会わせて」というアメリアの願いを聞きいれ、殺す相手をリッカルドに切り替える。暗殺者達の計画に加担したレナートは、アメリアが選んだくじで暗殺の実行者になる。そこへ、リッカルド暗殺の絶好の場、仮面舞踏会の招待状がレナートとアメリアに届く。翌日の夜、舞踏会で出会ったリッカルドとアメリアが名誉と立場を考えて思いを断ち切ろうとしているところへ、レナートがやって来てリッカルドを刺す。騒ぎの中、リッカルドはレナートとアメリア両者に一番良いように、明日付けで領地へと帰る辞令にサインしていたことと、レナートの行動を許すと言い残して絶命する。

うわ、意外とまとめにくい(^_^;)今回の公演は、いわゆる改訂された「ボストン版」です。個人的には改訂前の王とその暗殺計画の方が真実味があって好きなんですけどね。ボストン版ではレナートがクレオーリョだとは今日まで知りませんでした。「オテロ」のような効果を狙ったんでしょうかね?必要ない設定だと思うし、今回の演出はいわゆる「読み替え」なので、そういったことは全然関係なかったですけど。第一ディーマ←だしね。演出と言えば、これは今年の春の新演出だったのですが、はっきり言って最後の仮面舞踏会のシーンにお金を使いすぎたのかその前の2時間はちょっと退屈なセットでバランスが悪いです。最後の演出は壁一面の鏡を使ってなかなか凄い仕掛けになっているのですが、その仕掛けを全部楽しめるのは高い席の客だけ(笑)上の階の後ろの方になると、鏡の反射が見えないので舞踏会のインパクトが全く違います。安い席の人はずっと退屈な演出だな~って感想で終わっちゃうと思うんですが、そんなんでいいの~?

今日の歌手の中で一番気に入ったのはリッカルドのマージソンでした。低音好きな私が珍しいこともあるものです。「仮面舞踏会」自体が、リッカルドのアリアがいっぱいですから、聞かせどころがたっぷりあるというのが一番の理由でしょう。高音も低音も豊かな声量に声の表現力もあって、これで体が細かったら(笑)文句なしの出来だったと思います。目をつぶって聞けば100点満点!芝居も上手いと思うのですが、あの体じゃあガックリ来てしまいます。勿体無い!その点、ディーマのレナートはとにかく立ち姿がカッコイイ!二人並ぶとマージソンがちょっと可哀想です(^_^;)ようやく生で聞けたのですが、声の密度が高くて、ヴェルディにはぴったりですね。今回の公演のオブザーバー紙の批評で"Meaty"(肉っぽい=がっちりした)と評されていたのですが、思いっきり納得。ただ、ちょっと綺麗に歌いすぎかも、という気もします。処刑場でアメリアとリッカルドが逢っていたと知った時の驚き方とか「そこまで大きなリアクションしなくても(^_^;)」というくらい激しく驚いてましたし、怒りの演技は素晴らしいと思うのですが、声のトーンはちょっと単調かなぁ?声でももっと壊れてくれたら更にいいのに~とか、勝手に私の好みを押し付けては失礼ですが…。もう一人期待のシュテンメは、今日はあまり調子がよくなかったのか、高音がかすれたり所々音を外しそうになったりで乗り切れませんでした。全体としては気品もあったし最後には声はバンバン出るようになりましたが、ラジオで聞いた今年のバイロイトのイゾルデの調子では無かったですね。ということで、彼女はちょっとガッカリ。他には、暗殺者の一人サミュエル役で登場の、個人的にお気に入りのヤング・アーティスト、ロバート・グリアドウ(Robert Gleadow)がやっぱり良い声でした♪もう一人の敵役、トムのマシュー・ローズ(Matthew Rose)もグリアドウもすらっとした長身で、黒いロングコートが良く似合ってました。悪の魅力全開ですね(笑)それから、今回のオスカルはテアトロ・レアルの「ドン・カルロ」のティバルドでした。思わぬ再会。

今回は私の大好きなチャールズ・マッケラス(Sharles Mackerras)の指揮ですが、はっきりいって彼が80歳とはとても信じられません。特にモーツァルトや東欧の作曲家の指揮で有名な彼のヴェルディはどんな感じだろうかとわくわくして聞きに行ったのですが、すっごく元気満々でした(笑)テンポは速めでメリハリが効いているところはいつものマッケラス節炸裂ですが、それでもヴェルディらしさを失わないというか、こういうことは上手く説明できないのですが、またまた好みの指揮でした。

ということで、今回の公演の個人的な満足度は、歌手も指揮も非常に高いです!リッカルドがマージソンのうちに最低もう一度は行くこと決定(笑)


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コメント 10

さっそくのレポありがとうございます^-^
>>低音好きな私が珍しいこともあるもの
そう、そう、なんだかんだ言ってこのオペラはテノールのオペラですよね^^!王様だったら、多少貫禄あってもなんとなく許されるんですけど(笑)これは伯爵なんですよね。

>>クレオーリョだとは
わたしも知りませんでしたー。うーん、べつにあってもなくてもいい設定ですねぇ^^;
>>声でももっと壊れてくれたら更にいいのに~
キレイに歌ってましたかー。前のハンプソンの放送聞いちゃうと、あれくらい壊れてるレナートいいなぁと思っちゃいますよね。

そしてやっぱりこの公演でもサム&トムは素敵だったんですね??若手のバスが歌うことが多いせいか、この役柄ってちょっと注目しちゃいます。
by (2005-11-22 14:27) 

娑羅

>処刑場でアメリアとリッカルドが逢っていたと知った時の驚き方とか「そこまで大きなリアクションしなくても(^_^;)」

私が持ってる映像は、ヌッチのレナートですが、ここの字幕が、
「なんだ!アメリアか!」
なんですよ~。
「なんだ」じゃ、あんまり驚いてないみたいじゃん・・・(-_-;)

壊れるレナート・・・私はあんまり見たことない(って、2つの映像と1つの舞台しか見てないけど)ので、想像つきません。
そっか、ふつー、レナートは壊れるものなのね。
ヌッチは怖かったし、カップッチッリはあくまで品位を保っていたし、ポンスは・・あんまり覚えてない・・・。
「ポンス、いい声だぁ~」って思ったけど。
この時は、ドミンゴばっかり見てたから(^^;)
by 娑羅 (2005-11-22 16:03) 

ロンドンの椿姫

半年前のプレミエのときの記事をTBさせて頂きました。これを見てブログを始めようと思ったわけで、私のオペラ記事第一号です。

マージソンはマゼールの1984にも出てましたよね。あれはぴったりで、それまで生で何度か聞いたうち、あれが一番よかったです。しかし、あの声とあの姿、ベン・ヘップナーとそっくりだと思いませんか?

http://peraperaopera.ameblo.jp/
by ロンドンの椿姫 (2005-11-22 19:18) 

dognorah

私も半年前のをTBしておきますね。シュテンメはよく無かったですか。私が行くまでに調子を戻してほしいなー。リッカルドはGiuseppe Gipali出演の日にしました。マージソンはあまりいい印象を持っていませんので。
ところで、ウルリカはやはり黒く塗るメーキャップでしたか?今、それが人種差別だという論争が起こっていて、ROHはそのメーキャップをやめる命令を出したのですが、演出家のMario Martoneが反発しているので、どうなっているのかなーと思った次第です。今後は黒人役には黒人歌手を使うべきだという意見もあるようです。
by dognorah (2005-11-22 21:30) 

Sardanapalus

皆さんコメントありがとうございます。

りょーさん>
>王様だったら、多少貫禄あってもなんとなく許される
から、余計に王様の設定でやって欲しいと思いました。マージソンは声はいいんですけどね~、アノ体で戦地じゃ戦えないでしょ(^_^;)といいたくなっちゃいます。

>サム&トムは素敵だったんですね
はい、素敵でした♪グリアドウは若いけど本当に良い歌手ですよ~。dognorahさんも時々取り上げてくださってます。これからが楽しみです!

娑羅さん>
>字幕が、
>「なんだ!アメリアか!」
なんだ、は無いですよねぇ~。せめて「なんと!」「なに!」「なんだと!」とかにして欲しい(笑)

>壊れるレナート・・・私はあんまり見たことない
私も実際に見たことは無いですが、漠然とそういったイメージを持っていたのです。それまでの忠誠を捨ててしまう訳ですから、余程ショックだったんだろうな~って。どうしても、生で見るときは「芝居」としての要素をオペラに求めてしまうんですよね~。

>ドミンゴばっかり見てたから(^^;)
ふふふ、私が繰りかえし聞いて予習したCDもドミンゴでした。彼はこういう役がカッコイイですね。
by Sardanapalus (2005-11-23 06:03) 

Sardanapalus

ロンドンの椿姫さん>
TBありがとうございます!

>マージソン
>ベン・ヘップナーとそっくりだと思いませんか?
勿論思います。というか、私の中ではマージソンはオペラ界のへップナーです(笑)「1984」のマージソンは見せ場が少なかったけど海坊主のような姿のほかに声が印象的でしたので、「仮面舞踏会」は良いだろうな~と思って期待していて大正解。いつかは王様の演出で映像化して欲しいと思いますね(笑)

dognorahさん>
TBありがとうございますpart2(笑)あ~あ、私も半年前のも見たかったです…けど論文書いてましたからね~。

>シュテンメ
声量や表現力は流石でしたが、本当に調子がいまいちだったのでしょう、なかなか声が安定しなくてハラハラしました。隣のおばちゃんは「凄い声ね!」と大喜びでしたけど、CDで予習していったので余計に歌うのがきつそうな部分が気になってしまったようです。初日の批評では絶賛されてますので、この日だけ調子が悪かったのでしょう(と信じて2回行きます^_^)

>ウルリカ
いえ、白人のままでしたよ。ジプシーということらしいですが、黒塗りはしてませんでした。ステファニー・ブライス(Stephanie Blythe)さん、迫力のある声で役にぴったりでした!

>黒人役には黒人歌手を使うべきだ
それか読み替えるか、ですね。とりあえず白人がわざわざ黒く塗る必要はないでしょう。想像力を駆使すればいいだけなのに、なんて思っちゃうのは日本人だからでしょうね~。
by Sardanapalus (2005-11-23 06:20) 

dognorah

>いえ、白人のままでしたよ。・・・
ということは、歌手はDirectorのいうことを聞かずにROHの命令に従ったということですね。今後はすべてこうなるのでしょう。オテロの場合も白人のままになるのでしょうね。現在適当な黒人テノールって思い当たりませんから。
by dognorah (2005-11-23 20:13) 

Sardanapalus

>ROHの命令に従った
この問題の新聞記事を読みました。このブログから勝手にリンクさせていただいている「オペラキャスト」さんでも話題になってましたね。ドレスリハーサルは黒塗りしたんだ…今年の「オテロ」も黒塗りしたって聞きましたよ。イギリス人の知り合い(白人)が「時代遅れ」って嫌ってました。大体、プログラムのUlrica, a negro fortune-tellerという表記もどうなのか。これは台本どおりなんでしょうけど、歌詞では「ジプシー」って言われてるし(^_^;)改変前の設定ではジプシーなんですよね。プレミアの時は黒塗りでしたか?ちなみに、レナートの家や舞踏会シーンなどの召使達は黒塗りしてました。
by Sardanapalus (2005-11-23 22:10) 

助六

>クレオーリョ
実はレナートの肌が何色だったかは結論が出ていません。
「クレオーリョ」という言葉自体に(1)アメリカ大陸生まれの白人(2)白人とインディオあるいは黒人の混血という二義があり、ヴェルディと台本作家のソンマが「creolo」でどちらを想定していたのかは、はっきりしません。
リッカルドが3幕のロマンツァに先立つシェーナで「レナートはイギリスに帰そう。彼の妻も一緒に。Renato rivedrà l'Inghilterra - e la sua sposa lo seguirà.」と言っており、続くフィナーレでリッカルドはアメリアに向かって「あなたの生まれ故郷(イギリス)へ al natio tuo cielo」と言っていますから、基本的にはレナートはイギリス生まれの白人で、(1)の意味でのクレオーリョではありえないと考えられますが、17-18世紀の英貴族社会に混血児が存在したことも知られており、レナートもそうした例で(2)の意味でクレオーリョと考えることも不可能ではないからです。
当時の演出台本には、合唱団員、エキストラについて「白人・黒人・ムラート(混血)・及びクレオーリョ」と記されているそうですから、ますます訳が解らなくなります。
ソンマのオリジナル台本は、史実を踏襲しレナートをスウェーデン貴族社会のアンカーストレーム伯爵としていたのですから、やはり基本的に白人と考えるべきでしょうし、改定ボストン版のドラマの運びの上でも、オテロに擬されるような「レナートの肌が褐色であるが故の嫉妬」あるいは「2級白人であるが故の嫉妬」を仄めかすような表現も、ドラマ的契機も皆無ですから、正に「必要ない設定」だと思います。ソンマも度重なる検閲による書き換えにウンザリしていたようですから、「クレオーリョ」という但書きや「故郷イギリス」といった台本細部は忘れていた可能性もあるかも知れません。
レナートを混血に設定した演出も見たことないですよねぇ。
by 助六 (2005-11-24 07:48) 

Sardanapalus

助六さん>
いつものようにためになるコメントありがとうございます。
>「クレオーリョ」という言葉自体に(1)アメリカ大陸生まれの白人(2)白人とインディオあるいは黒人の混血という二義
>レナートはイギリスに帰そう
そうなんですよね~。考えてみたら、アメリカ先住民と白人の混血は「メスティーソ」と呼ばれるのが一般的だったので、ここでは漠然とアメリカ大陸で生まれた白人もしくは混血人種ということになりますか。でも、わざわざボストンでクレオーリョと呼んでいるのだから、混血のほうかなぁ、と漠然と思っていたのですが、何と彼はイギリス人なんですかー???この情報から計算すると白人である確率はきわめて低くなりますけど、このオペラでレナートの肌の色をいじくり回すのはただの邪魔にしかならないと思うのですけどね。もしかして、改訂版をすんなりと検閲に通すために、物語の中核の「いつでも王になれる実力者による暗殺事件」ではなく、暗殺へ至るまでの犯人の心理状況の方を注目させるようにしたのかもしれませんね。何も言われなければクレオーリョ=アメリカ生まれの白人の設定で、再び文句を言われたら「レナートは混血のクレオーリョだから劣等感を常に持っていた」とか、適当に言い逃れが出来そうですから…。

>「白人・黒人・ムラート(混血)・及びクレオーリョ」
この使い方ですと、ムラートが意味するのは黒人と白人の混血だけなので、クレオーリョはアメリカ大陸生まれの白人または白人とアメリカ先住民の混血ですね。ってことは、レナートはやっぱり混血?う~ん。オペラにつっこみを入れてはいけないと思いつつも、ついつい追求してしまいますねぇ。

>「クレオーリョ」という但書きや「故郷イギリス」といった台本細部は忘れていた可能性もあるかも
確かに。上のコメントでも書きましたけど、この「ボストン版」では、ウルリカは黒人なのかジプシーなのか、どっちなの?という疑問も残ってます。この時代既にアメリカ大陸にもジプシーが渡っていた事実はあるのかしら?余りにも大きな矛盾点なので、コヴェント・ガーデンの字幕が間違ってるのかと思っちゃいましたけど、ジプシーと黒人の混血って言う設定なのかなぁ。イタリア人だからこういうとこは適当でいいや、とか言ってたりして(笑)
by Sardanapalus (2005-11-24 10:25) 

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