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演劇「リチャード二世」 [演劇]

今日は友達と一緒にケヴィン・スペイシー(Kevin Spacey)主演のシェークスピア劇「リチャード二世(Richard II)」を見てきました。左のフライヤーから劇場ホームページへリンクしてます。ロンドンのオールド・ヴィク劇場(The Old Vic)で9月に開幕してから約2ヶ月、今日で千秋楽の公演です。演出はシェイクスピアに留まらず、ミュージカルやオペラでも活躍しているトレヴァー・ナン(Trevor Nunn)でした。

あらすじ:実は内気で寂しがり屋のリチャード二世がアイルランド遠征でイングランドを離れているさなか、かつて追放した従兄弟のヘレフォード伯ヘンリー・ボリングブルックの反乱によって王位から追われ、果てには暗殺されてしまう話です。このヘンリーがいわゆるヘンリー四世ですので、この後イギリス史におけるランカスター家とヨーク家の「薔薇戦争」の時代に入ります。これ以上書き出すと細かくなりすぎて止まらないと思うので、詳しいことはこちらを参考にしてください。史実のリチャード2世についてはWikipediaへどうぞ。

「ロミオとジュリエット」や「ハムレット」、「オセロ」、「マクベス」、「リア王」等の有名な「悲劇」作品や「喜劇」作品とは違う、「歴史劇」のシェイクスピアを英語で見るのは、これがはじめて。日本語でもあらすじくらいは抑えておかないと難しい部分が多い歴史劇なのに、今回は全く予習せずに行ったので途中で寝ちゃうかな?と心配してましたが、ナンの演出のお陰で3時間の長丁場も面白く見ることが出来ました。

演出は、オペラでも盛んな現代読み替えの演出。リチャードも貴族達も皆スーツにネクタイ、女性も現代の洋服です。リチャードの従兄弟オーマール公なんかは、まだ若いので私服で登場するところではバイクジャケットにジーンズにオールスターを履いて、いくつものカラーバンドを腕にしていました。細かいなぁ(笑)実際ハリー(イギリス皇太子の次男ヘンリーのこと、ちょっと問題児)とかこんな感じっぽいから余計に可笑しいんですけど。この演出、イギリス人もしくは現在イギリスに住んでいる人じゃないと細かい部分の面白さが半減してしまうんじゃないかというくらいきっちりと現代イギリス化されていたのが特に印象的でした。ま、ヨーク公(ヘンリー支持)にヘンリーの前で謀反の罪を追及されている息子オーマール公(この時はリチャード支持)の命を救おうと必死で駆けつけたヨーク公夫人が、息子のヘルメットとバイクジャケットを被ったまま部屋に飛び込んでくる場面は誰でも笑うと思いますけど(笑)最初に車でヨーク家を出たのはヨーク公、次に母親から車を貸してもらったオーマール公、最後にヨーク公夫人が息子のバイクに乗ってすっ飛ばしてきた訳ですね。母のパワー恐るべし(^_^;)

セットも結構しっかりした王座と議会のテーブルと椅子があるセット以外は、ほぼ何も無いところにスクリーンが下がっていたり、仕切りが出てきたりするだけのシンプルなものでしたが、ちょっとした小物が効いていてシーン転換もスムーズだったので集中力が途切れることなく見ることが出来ました。(こういったストーリーの流れ作りの上手さは、彼の演出したミュージカル作品を見ると一番実感できます。)

それから、登場人物の性格付けとキャスティングもナンは上手いですね~。だって、台詞の細かい部分は分からなくても、「たまには自然と戯れたい~」とか言ってるリチャードや青二才のオーマール公が、あの計算高いヘンリーには到底勝てないでしょうね、って納得できましたから(笑)脇のキャラ達もアクセントや衣装で変化をつけて、それぞれを癖のある人物に作り上げていました。それでも全体を見るとやっぱりリチャードとヘンリーに注目が集まるような舞台なんですよね。本当に、ナンって凄いなぁ。

演出家ばかりでなく、俳優陣も皆素晴らしかったと思いました。イギリスにはしっかりとシェイクスピアを演じる為の基礎の出来た俳優があちこちにいますから、こうしたアンサンブルの隅々まで充実したキャストを組めるのは当然ですけど(笑)リチャードのスペイシー以外はロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(Royal Shakespeare Company)ナショナル・シアター(National Theatre)などでシェイクスピアを何度も演じたイギリスを代表するシェイクスピア役者達と若手の成長株の役者達がバランスよく揃っていました。

スペイシーは、王としての誇りと重圧とに板ばさみになって苦しむリチャードを大熱演。だっさい真ん中分けの髪型にしてるなぁ、と思ったらカツラでした(笑)数少ないコミカルな台詞も上手に処理していましたし、「王でも諸君らと同じように生きているし、友人も欲しい!」「王位は喜んで渡すが、それでもそれを嘆くのは私の自由だ」「涙がたまってしまっているこの目では読めはしない」などの王としての孤独感を言い表す台詞の数々にものすごい説得力がありました。王じゃなくなったら名前も無い、今では自分をどう呼べばいいのかも分からない、と泣き崩れるリチャードは悲しすぎる…。それと、王妃イザベルとの別れのシーンも感動的でした。さすが映画界で引っ張りだこの上、この劇場で芸術監督をしているだけのことはありますね。元々好きな俳優でしたが、これで益々ファンになりました。ヘンリーを演じたベン・マイルズ(Ben Miles)はイギリスではテレビにもよく登場していますが、正に抜け目の無い王位簒奪者でした。スーツ姿で演説する姿はどこと無くブレア首相を彷彿とさせるような雰囲気。これはナンの指示かもしれませんが…。他には、ヘンリーと手を組んで反乱を起こすノースウンバーランド伯のオリヴァー・コットン(Oliver Cotton)とリチャードの友人だったけど最後には保身のためにヘンリーに従うもう一人の従兄弟オーマール公のオリヴァー・キーラン=ジョーンズ(Oliver Kieran-Jones)が印象に残りました。偶然2人とも名前はオリヴァーですが、顔は180度違うタイプです。コットンはベテランの味を生かして、がっしりとした体格とはっきりした発声でパワフルに重要な中堅役を演じきっていましたが、キーラン=ジョーンズはまだ若く、ひょろっとした体格に金髪のお坊ちゃんタイプの顔をしているので、リチャードのことを親身になって考えている爽やかな従兄弟にぴったりでした。

全く予習せずに行きましたが、演出が分かりやすかったので最後まで何が出るのか分からない楽しさを味わうことが出来てよかったです。カーテンコールも、スペイシーとマイルズには黄色い声がバンバン飛んでましたし、イギリスでは珍しく大騒ぎでした(笑)ナンの中では古典的な演出のシェイクスピアはありえないそうですが、ここまで面白く読み替えられるなら、現代に読み替える演出があまり好みでない私でも、彼の演出するシェイクスピアをもっと見てみたいと思いました。


◆イギリスの新聞批評◆

ガーディアン紙
インディペンデント紙
Broadway.comの批評特集記事


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コメント 8

keyaki

このお写真からするとあのケヴィン・スペイシーですかぁ!
ユージュアル・サスペクツとか、アメリカン・ビューティーとかの
舞台出身って聞いたことがある様な気もしますが、ロンドンで舞台にたってるんですか、へぇーーーです。
by keyaki (2005-11-27 13:49) 

Sardanapalus

keyakiさん>
>あのケヴィン・スペイシー
そうですそうです!いつも癖のある役をさらりとこなす、あのスペイシーです。これが初シェイクスピアだったらしいですけど、私の耳にはアクセントも自然だったし、素晴らしかったと思います。今年はこのオールド・ヴィク劇場の演目に結構出てました。来年はどうか分かりませんけど…。頭の固いイギリス人批評家は皆「アメリカ人芸術監督のお手並み拝見」といった感じで意地悪く見守っています(^_^;)
by Sardanapalus (2005-11-27 19:09) 

あ、演劇界に疎いわたしですが、トレヴァー・ナンなら知ってるー。レ・ミゼラブルも彼だったですよね?
by (2005-11-27 23:16) 

Sardanapalus

りょーさん>
おお、ナンをご存知ですか!はい、「レ・ミゼラブル」も彼です。後、「キャッツ」も。彼の演出は本当に流れが途切れないように出来てますよね~。新作の他にも、ロンドンでやってるリバイバルのミュージカルも結構演出してます。「マイ・フェア・レディ」も「オクラホマ!」もヒットしてましたし、私も去年は「エニシング・ゴーズ」を3度も見ちゃいました(笑)
by Sardanapalus (2005-11-28 02:10) 

クリス

読み応えのあるレビューをありがとうございます!スペイシーがイギリスのシェークスピア集団(笑)に負けず劣らない熱演ぶりだったって聴いて、なんか嬉しかったです(けっこう長い間ファンなんです)。それと同時に、やっぱり私も観たかったなーって思いました、、、カツラは醜いけど(笑)現代劇だったんですね、だからHPいってもスーツ着てる訳だ。
スペイシーも、最近は作品(映画)に恵まれてなかったんで、舞台に立つことでいい転換期になるといいなーと思ってます・・・あ、次回作は「Superman Returns」だった。ブライアン・シンガーが監督だけど、なんか微妙 (^-^;
by クリス (2005-11-28 06:51) 

Sardanapalus

蟻銀さん>
スペイシー、流石の演技でしたよ!ダサい外見もぴったりで。カツラ取ってから(譲位してから)死んじゃうまでがかっこよさ倍増したし(笑)ちなみに、写真はヘンリーに「王冠を渡してくれ」と言われて、「うん(Aye)」って言いながら渡そうとしてるとこです。この後すぐ、「やっぱりいや(No)」ってまた自分の方に引っ込めちゃうんですけどね(笑)現代演出で、巨大スクリーンなんかも使ってて、ヘンリーたち反乱軍がイラクのゲリラみたいだったりと、色々と含みのある演出でした。

>次回作は「Superman Returns」
あは、ビミョ~ですね(^_^;)ついこの前テレビで「交渉人」をやっていて、良い演技してるな~ってしみじみ思っていたところです。映画も脚本と出来上がりが違ったりしてなかなか難しいですからね~。映画でいまいちだから舞台で演技したかったのかな?
by Sardanapalus (2005-11-28 07:47) 

amore spacey

はじめまして~♪
私も去年の10月、イタリアからロンドンに飛んで
ケヴィの舞台を観ました。感激レポをTBさせて頂きます。
今秋も舞台が予定されているのでまたロンドンに行きまーす。
http://kspacey.exblog.jp
by amore spacey (2006-01-02 21:28) 

Sardanapalus

amore spaceyさん>
はじめまして!たくさんのTBありがとうございます。凄いですね~。スペイシーへの愛が感じられます(笑)あまりスペイシーの話題はありませんが、映画は好きですので、リンクさせてください。

>今秋も舞台
彼は今年もけっこう忙しいスケジュールっぽいですよね。売れっ子だから当然でしょうけど。元気に秋に戻ってきて欲しいです。
by Sardanapalus (2006-01-02 22:18) 

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