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ミュージカル「YAKUMO」 [演劇]

日本に帰ってきてはじめての観劇は、ミュージカルで活躍している俳優、沢木順の一人芝居ならぬ一人ミュージカルの「YAKUMO」でした。2004年(ハーン没後100年目)の初演から日本各地で公演していますが、名古屋では初上演です。

小泉八雲の日本人名を持つアイルランド人、ラフカディオ・ハーン(Lafcadio Hearn)の生涯を歌と語り(と少しのステップ)で紹介する作品です。ミュージカルというよりは、「歌芝居」という方が合っているでしょう。シンプルな舞台の上には3体の女性の彫像が、舞台の上方には3つの仮面がさがっています。彫像はそれぞれハーンが愛した3人の女性達、母親、美しくて聡明な同僚エリザベス、日本人の妻せつの3人を表していて、仮面はその他の登場人物が喋っている時に照明が当てられて活躍します。沢木さんの衣装も舞台も黒主体のモノトーンで統一されていて、ハーンの語る言葉に集中できる舞台構成なので、小ぢんまりとした劇場の広さもぴったりで、久しぶりの観劇はかなりの「当たり!」でした。言葉の端々に感じられるハーンの優しさにも癒されましたね~。

ハーン(八雲)といったら日本の民話や「耳なし芳一」などの怪談を編纂した外国人、という程度の認識しかなかったので、ここまで波乱万丈の人生とは知りませんでした。母親がギリシャ人だったこと、4歳の時に両親が離婚して、厳格なカトリックの叔母の家で育ったこと、寄宿舎生活中に何度も鞭打ちの懲罰を受けたこと、事故で左目を失明し、自分の容貌に対して生涯コンプレックスを抱き続けたこと、ロンドンでの放浪生活、騙されてアメリカに渡って遺産相続権を失ったこと、人気新聞記者になるも黒人との結婚を理由に解雇されたこと、後輩で同僚のエリザベスに対する熱烈な片思いなど、出るは出るは、日本に来るまででも分厚い伝記が書けそうな人生でビックリしました。

日本に来てからも、「古事記」や日本の神話でなじみのある出雲に近いからという理由で松江での英語教師の職に応募したら、そこで身の回りの世話をしてくれた小泉せつはハーンの興味の対象である口承物語を沢山知っていたり、偶然は重なるものですね。こういうのは「運命」と書いて「さだめ」と読むのでしょうか(^_^)

意外だったのは、ハーンが日本国籍を取り小泉八雲と名乗るようになったのは、せつとの間にできた子供が日本国籍を取れるようにするためということでした。スムーズに結婚して名前を作って国籍も取ったのかと思っていましたが、結婚も国籍取得も、やはり様々な過程をたどっていたのですね。自分のコンプレックスである目のことを褒めてくれたのはエリザベスとせつの2人だけ、と語るシーンも印象に残りました。

沢木さんの出ている舞台は久しぶりに観ましたが、多彩な歌声で老若男女様々な登場人物を歌い分けていて、作品の世界にどっぷり浸れました。とりあえず、最近の日本のミュージカルで体験することが多い、音程の不安定さを気にする必要が無かったのが何より嬉しかったですね(^_^;)今回は2004年の公演時の映像を観たときよりもスムーズな舞台転換(この場合は人転換?)になっていて、ハーンの心情を追いやすくなっていたと思います。

このミュージカルのお陰で、今までは名前しか知らなかったハーンの生涯が、ぐっと身近なものになりました。もし今後近くの街で公演されることがあったら、ぜひご覧になってみてください。特に、小泉八雲に興味のある人は必見です。


◇関連ページ◇

@niftyシアターフォーラム「YAKUMO」特集ページ
小泉八雲@Wikipedia
沢木順公認ホームページ


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コメント 3

せり

横浜の赤レンガで開かれた沢木順さんのリサイタルに行ったことがあるんですが、その際小泉八雲のミュージカルのことをお話してたんですよ。彼の出身の早稲田大がかなり後押ししてるようなことも言ってました。それをご覧になったんですね。小さなホールでのシャンソンを中心とした沢木さんのリサイタルはとっても楽しいものでした。沢木さんのお父様は「さくら貝の歌」を作曲された方なんですね。
by せり (2006-03-10 08:01) 

Bowles

>日本に来るまででも分厚い伝記が書けそうな人生

もちろん出てます(笑)。

アイルランド出身の父とギリシャ人の母の間にギリシャの島に生まれたハーンは、生涯、当時の社会で「周縁」と思われていたものへ愛着を持っていたようです。マルチニークの文化を研究したり、クリオールに関心を持ったり。そうそう、彼の書いたクリオール料理の本もあるんですよ。
by Bowles (2006-03-10 11:49) 

Sardanapalus

せりさん>
>早稲田大がかなり後押し
そうなんです。今回の名古屋公演は、早稲田校友会の名古屋支部が関わっているようです。ハーンが帝大を解雇された後に迎え入れたのが早稲田だからでしょうね。

>沢木さんのお父様は「さくら貝の歌」を作曲された方
八洲秀章さんですね。他にも「あざみの歌」など、美しい曲を作られています。

Bowlesさん>
>>日本に来るまででも分厚い伝記が書けそうな人生
>出てます(笑)
やっぱり!(笑)日本に来る前に、西インド諸島の旅行記なんかも出版しているんですよね。料理まで手を伸ばしていたとは知りませんでした~。

>社会で「周縁」と思われていたものへ愛着
ミュージカルでは、幼い頃に母が語ってくれたギリシャ神話も、彼の「周縁」への興味を駆り立てる原動力になったというようになっていました。彼には多神教(非キリスト教)を許容する文化の方が性に合っていたようですね。
by Sardanapalus (2006-03-10 12:06) 

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