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オペラ「アーサー王」 [オペラ(実演)]

前回「アリオダンテ」でちょっと見直したENOにまた行ってきてしまいました。見てきたのはヘンリー・パーセル(Henry Purcell)「アーサー王(King Arthur)」です。17世紀末に作曲されたこの英語のオペラ、本来は歌と語りとダンスと音楽が含まれている作品だそうですが、今回は台詞はカットされていて、休憩含めて2時間弱という短い作品でしたが、とても楽しかったです。

               

台詞が無いので当然話が飛び飛びになって展開が良く理解できないのですが、それでも興味をひかれたのは、マーク・モリス(Mark Morris)の演出だからです。バロック・オペラにモダンダンスを組み合わせるのは最近の流行ですが、この演出もその枠に入るでしょう。時代を全く無視した演出だったので見終わった今でもどんな話なのかよく分からないのですが(笑)、耳に心地良い音楽と目に楽しいダンスが両方楽しめたので、これは分からなくてもいいような気がします。とりあえず、アーサー王の率いるブリトン系とサクソン系の闘いが基にあって、サクソン側に拐われたアーサーの婚約者を奪回しにいく途中様々な障害にでくわす話とか何とからしいです。

演出の時代設定は現代ということですが、最初は半分現代、半分時代の衣装(というか普段着に鎧とか、ジャージに貴族のかつらとか)でしたが、次第にダンサーはマリン・ルック、歌手達はタキシードやドレス姿に変わっていきます。第4、5幕は船もしくは港の設定のようでした。歌手達にもちょっとした手の動きやステップ等が振り付けられていましたが、やはり圧巻はダンサー達。

とにかくソリストの歌手達が歌っている間、マーク・モリス・ダンス・カンパニーのダンサー達が舞台狭しと踊りまくります。「笑う」と歌えば笑い、「踊る」と歌えば踊り、「がぶ飲みする」と歌えば次々とグラスを空け、「飛ぶ」と歌えば腕をパタパタさせ、「侵略」と歌えば戦闘体勢になり、とかなり分かり易いものでした。あまりにも歌詞と動きが一致していてつい笑ってしまう部分もありましたが、全体的にはそれをグループ分けしたり時間差で踊らせたりする、かなりスマートな印象の振り付けでした。第4幕では間奏曲にあわせて本格的なメイポール・ダンスを披露してくれて、これが見れただけでもかなり得した気分です(^^)

この公演で一番気に入ったのは、「アーサー王」というテーマの重厚さを現代の若者文化で解体してしまったところです(おかげでストーリーは分かり辛いですが)。雪の降りつもる丘の下に眠る冷たい賢者(Cold Genius)という登場人物は賢者どころか、冷蔵庫の中で凍りついている保守的な爺さんとして登場しますし、妖精は背中に蝶の羽をつけてるし、島々の女王(The Queen of Islands)は魔法の変身ステッキみたいな棒を持ってるし、騎士達はどっかそこらの兄ちゃん達。全てにおいてこういう状態なので次第にストーリーの一貫性なんてどうでもよくなってきて、その場面の音楽と歌にあわせたダンスと歌唱を楽しむコメディ・レヴューを見ているようでした。

本来の「アーサー王」が見たい人は不満でしょうけど、この作品を上演するならば、こういう舞台作品として楽しくて見応えのある演出があっていると思います。歌手もいつものENOのレベルの歌手達が揃っているし、珍しいオペラですから、時間がある方は、クーラーもよくきいているENOへぜひ行ってみてください。


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euridice

「三幕に登場する凍える神と、人々が、短い息で声を震わせて唱う。凍りつく息が見えるようだ」というのを読んで、好奇心で聴いたことがあります。他のところは全然覚えていませんが、その部分はとってもおもしろかったです。身を切る寒さに震えているのを表現する唱だそうですが、Sardanapalus さん、気がつきましたか?
by euridice (2006-07-04 22:03) 

Sardanapalus

euridiceさん>
>身を切る寒さに震えているのを表現する唱
もう、気の毒なくらい寒そうでしたよ(笑)この冷蔵庫の中から歌いますので、余計に「そりゃ寒いよ!」とツッコミをいれたくなる設定でした。他のところは、まあ綺麗なメロディーですが、最後のほうはずっとブリテン万歳!の歌なので、別に覚えてなくても大丈夫です(^_^;)
by Sardanapalus (2006-07-05 00:40) 

いいなー楽しそう。日本でもこういうのやればいいのにーって思いますね。
by (2006-07-05 06:47) 

euridice

Sardanapalus さん
>気の毒なくらい寒そうでした
やっぱり・・・ 
写真からも「寒さ」が伝わってきますね^^!
(「身を切る寒さに震えているのを表現する唱」、あらら、ちゃんとタイプされてなかったです。「唱」じゃなくて、「唱法」です)
by euridice (2006-07-05 06:58) 

Sardanapalus

gonさん>
>日本でもこういうのやればいいのに
でも、うまく宣伝しないと集客できなくて企画がボツになりそうですけど、日本でもぜひやってほしいですね。

euridiceさん>
>写真からも「寒さ」が伝わってきます
あまりにもガチガチと歯をならしているような歌い方だったので、「凄い斬新なアレンジしてるなぁ」と思ったら元々そういう曲でした(笑)
by Sardanapalus (2006-07-06 20:33) 

Belle de Nuit

>あまりにもガチガチと歯をならしているような歌い方
あそこ、最初にCD聞いた時にびっくり。超スローなスタッカート(でいいのかしら?)、あの時代に何と個性的な!、と思っていました。それにしても冷蔵庫とは、納得の演出ですね。それは確かに、寒い!(笑)。
by Belle de Nuit (2006-07-09 00:02) 

Sardanapalus

Belle de Nuitさん>
>>あまりにもガチガチと歯をならしているような歌い方
>あそこ、最初にCD聞いた時にびっくり
劇場も一瞬歌手の調子が悪いのかという雰囲気のざわめきがおこりましたよ(笑)

>冷蔵庫とは、納得の演出
そうなんです。「永遠に雪の降りつづく丘の中で凍えている」って、そんなとこにいるからでしょ!ってエロスがツッコミ入れてましたからね(^_^;)
by Sardanapalus (2006-07-10 18:19) 

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