SSブログ

オペレッタ「美しきエレーヌ」 [オペラ(音源・映像・その他)]

喜歌劇《美しきエレーヌ》だいぶ前にコメント欄で薦めていただいたマルク・ミンコフスキ(Marc Minkowski)指揮の「美しきエレーヌ(La Belle Helene)」 をようやく見ることができました。それもこれも、ふらりと立ち寄ったCDショップでDVD10%オフセールをやっていたから(笑)おかげでこの面白くてご機嫌な公演をいつでも見れるようになりました。わーい♪

あらすじ:舞台は古代ギリシア。スパルタの王妃ヘレナ(仏語ではエレーヌ)は、愛の失せてしまった結婚生活に辟易しながらも、最近ヴィーナスを世界一美しい女神に選んだ羊飼い(実はトロイ王子パリス)がその見返りとして世界一の美女すなわち自分を貰いに現れるのを心待ちにしている。程なくスパルタで開催された知恵比べに参加して見事勝利したパリスとヘレナはお互いに惹かれあい、ヘレナの夫プリアモス王を神託でクレタ島に行かせている間に懇意になろうとするが、急に帰ってきた夫にいちゃついている場を見つかりパリスはしぶしぶスパルタを離れる。すると今度は、パリスとの約束が果たせずに怒ったヴィーナスがギリシャ中の妻を夫に反抗させて国家転覆を狙う。困り果てたギリシャの王達の前にヴィーナス神殿の神官がやってきて、女神の怒りを静めるためにはヘレナを渡せという指示に従って、ヘレナと神官だけヴィーナスの聖地シテ島へ向けて船で出発するが、実はこの神官は変装したパリスであった。チャンチャン♪(ちなみに、この後略奪されたヘレナをギリシャ側が取り戻そうとして始まったのが有名なトロイ戦争)

一般的にはオペラ・セリアの題材として人気のギリシャ神話の中でも有名な、トロイ戦争の原因となったパリスとヘレナの不倫愛エピソードと当時の政治批判と結びつけたトコトンお馬鹿なストーリー展開です。

オッフェンバックの軽快なメロディにのって歌われる歌詞がまた間抜けでいちいち可笑しいんですよ。エレーヌはいきなり「愛が欲しいのよ!」とか叫んでみせるし、存在感の薄いメネラオス王は「私は王妃の夫♪」と自己紹介。他のギリシャの王たちもアイアス、アキレウス、アガメムノンと兵揃いのはずが、そろいも揃って筋肉バカという設定(笑)幼稚な知恵比べに楽勝のパリスも「そう、僕こそリンゴの男です!」「やあ、僕のこと呼んだ?」などと発言するようなお軽い兄ちゃんで、とても王子とは思えません(^^)王子といえば、アガメムノンの息子オレステスも登場するのですが、彼はまだ少年なのに常に女の子を両手に抱える女たらしで浪費家という設定。他のオペラ・セリアでの母親を殺して苦悩するようなまじめなオレステス達とは一線を画しています。

ローラン・ペリー(Laurent Pelly)演出のこの公演は2000年にパリのシャトレ座で初演、一番最近では2006年にロンドンで英語上演されたセンスのいい現代読み替えが楽しめるものです。エレーヌは夫婦の倦怠期に物足りなさを感じる現代中流の中年マダム、ということで全ては彼女の夢の中の出来事となっている辺りがうまいですね。夢の中の話だから衣装も現代もの。エレーヌはドレープがきれいだけどシーツのドレス、王様達はパジャマに毛布や枕やモップつき兜やガウンやバスタオルを組み合わせてぱっと見は古代ギリシャのイメージですが、どんなに頑張ってもパジャマなので威張れば威張るほど爆笑しちゃいます。ギリシャの民衆はツアー客で、目にも鮮やかな色彩のリゾート服で王様達を観光しています。メネラオス王がクレタ島へ出発する1幕フィナーレは出演者総出でダンスしながら「クレタ島へ、クレタ島へ、クレタ島へ!」と大合唱、とどめに飛行機の添乗員がぞろぞろ登場して、華麗なダンスを決めてくれます。これには劇場の観客もテレビの前の私も大爆笑!それから、2幕でパリスとエレーヌがベッド上で歌うデュエットで登場する羊達の群がペアを組んで華麗に踊りだした時もおなかが痛くなるくらい笑いました。本当に良くできた演出で、他の場面もダレることなくわっはわっはと笑っている間に終わってしまう感じです。

キャストでは、「愛が欲しいの~!」と叫びながらもそこはかとなく漂う品のよさとユーモアがエレーヌ役にぴったりのフェリシティ・ロット(Felicity Lott)がすばらしいです。エレーヌにしては年くってる?いえいえ、こんなお茶目なおばさんならいいじゃないですか!欲求不満なおばさんの夢なんですから、自分が世界一の美女でも良いでしょう?(笑)他にはアガメムノン役のローラン・ナウリ(Laurent Naouri)が声だけじゃなくてお得意のギョロ目とへんてこダンスで笑わせてくれますし、メネラオス役のミシェル・セネシャル(Michel Senechal)はよれよれのワンピース型パジャマが良く似合って笑いのツボも抑えているし、パリスとエレーヌを助けてくれる神官カルカス役のフランスワ・ル・ルー(Francois Le Roux)は芸達者、パリス役のヤン・ブロン(Yann Beuron)もちょっとお調子者で傲慢な若者を好演しています。神官に仮装した後のリーゼントにサングラスで踊る姿はしばらく頭に残りそう(笑)で、このパリス役のテノール最近どこかで見たぞーと思っていたら、例の学ランオルフェオ(笑)で牧人の一人を歌ってました。そっちのメイキングでもこのパリスみたいにご機嫌な姿が映ってましたよ、そういえば。

ミンコフスキの指揮は色彩豊かで、このオペレッタの隅々まで楽しませてくれる演奏でした。数あるオペレッタの中でもこんなに大声で笑いまくった作品は初めてです。演出も演奏も、エンターテイメントを提供することに徹している点も私好みでした。読み替えといっても、見終わった後に小難しい社会問題や政治問題を投げかけるだけの自己満足的で暗い演出なんて、喜劇オペラの作品でやる必要がないですからねー。そういうのを見たいときはちゃんとアングラ劇や社会派演劇を見に行きますから!


Belle Helene 「美しきエレーヌ」といえば、以前見て気に入っているアーノンクール指揮のチューリッヒ歌劇場の公演もキッチュな衣装と適度なお遊びが楽しい演出です。ちなみに、チューリッヒの方は若いヴァッセリーナ・カサロヴァ(Vasselina Kasarova)がエレーヌです。こちらで一番笑ったのは眠り込んだエレーヌに神官カルカスがブラームスの子守唄を歌ってあげるところ(そしてその後アーノンクールに謝るところ)ですか。それにしても、エレーヌを歌うには背の高さが170センチ以上とかいう条件があるのかな?(笑)


nice!(1)  コメント(17)  トラックバック(1) 

nice! 1

コメント 17

euridice

このオペレッタ映像、評判なので見たいと思いつつまだです。オペレッタ自体は見たことがあるのかどうか.... テレビでルネ・コロが出ているのを見たような、いやこれじゃなかったかという具合で、全然記憶にありません^^;
by euridice (2007-03-03 07:33) 

ロンドンの椿姫

ああ、これこれ、去年ENOで同じのをやってました。
英語なのが気に入らない以外は、この映像とまるっきり同じで、しかもパリスがトビー君だから、とても楽しみました。59歳になったFelicity Lottはまだまだ魅力的なイングリッシュ・ローズでしたしね。
そのときのブログ記事をTBさせて頂きました。
by ロンドンの椿姫 (2007-03-03 10:35) 

Sardanapalus

euridiceさん>
>ルネ・コロが出ているのを見たような
一応、コロがパリスやってる映像もあります。これはドイツ語ですからテンポや雰囲気がかなり違いますが…(^_^;)
http://www.dreamlife.co.jp/menu/1120.html

この演出は本当におかしいので、ぜひ機会があったらご覧になってください。笑い転げること間違いなしです!
by Sardanapalus (2007-03-03 13:08) 

Sardanapalus

ロンドンの椿姫さん>
>去年ENOで同じのをやってました
そのときの椿姫さんの記事を読んでチューリッヒの公演のビデオを見たのがこのオペレッタを知ったきっかけなんですよ♪ブロンもいい感じですが、ここはぜひトビー君で見てみたかったです!(^^)なぜかTB来てませんが、懲りずにまた送ってみてください。
by Sardanapalus (2007-03-03 13:11) 

しま

こんばんは。
フェリシティ・ロット大好きです!……と、ただそれだけでコメントをつけてみるテスト。
初心者なので、オペレッタとかまだまだ未開拓なのですよ(´・ω・`)

>パジャマに毛布や枕やモップつき兜やガウンやバスタオル
まずい。こんなふうに煽られちゃうと、加速度的に見てみたくなっちゃいます。コスプレ・ドンジョもこれからなのに。
by しま (2007-03-03 19:50) 

やっぱりロットは素敵ですね。まだまだ歌ってほしいです。
by (2007-03-03 22:25) 

Sardanapalus

しまさん>
こんばんは~。ロットは素敵なイングリッシュ・ローズですよね。あのお洒落な身のこなしがたまりません。声ももちろん素敵ですが!

>加速度的に見てみたくなっちゃいます。コスプレ・ドンジョもこれからなのに
あのジョヴァンニは見た後重た~くなるので、ぜひこちらのDVDも一緒に購入してください。オッフェンバックの曲とミンコフスキの軽快な指揮と芸達者な歌手たちと陽気な演出が揃っていますから、何もかも大げさでコミカルなオペレッタが楽しめます。テンポもいいし、いちいち漫画っぽい(日常生活ではありえない)動きが満載ですし、踊る羊も登場するのでオペレッタ苦手なしまさんでも楽しめるかと思います(^^)
by Sardanapalus (2007-03-04 00:06) 

Sardanapalus

gonさん>
ロットは最近はフランスオペラやリサイタル中心にヨーロッパをまわってますね。本当に引退してしまう前にぜひとも生で聞きたい歌手です!
by Sardanapalus (2007-03-04 00:14) 

ロンドンの椿姫

TBがなぜか上手くいかないので、投稿者名のURLでトビーとフェリシティのENO英語版に飛ぶようにしときます。すみません。
by ロンドンの椿姫 (2007-03-04 01:29) 

Bowles

ねっ、最高でしょ?

もうお気づきかもしれませんが、チョイ役女性陣が超豪華。ドゥストラックにマガリ・レジェにトドロヴィチ!!この時はまだまだ若手だったんですけれどね。

ミンコ/ロットの二作目、そしてペリ演出のジェロルスタインも充分面白いですが、やっぱりこのエレーヌが最高でしょ!!この流れに、コヴェントメガーデンでのRegimentがあると思っていただければいいのでは...。
by Bowles (2007-03-04 02:36) 

stmargarets

フェリシティ・ロットってそんなにすごい人だったんだ。
知らなかった。
何度か行ったサマースクールのパトロンこの人でした。
今年はコンサートするっていうウワサです。
行くのやめようかと思ってたけど、行こうかな(笑)
でもちょっと高い買い物だな・・・。
by stmargarets (2007-03-04 11:08) 

Bowles

げっ!!
コヴェント「メ」ガーデンの「メ」、余分です(^^;)。

何しろロットは、われわれにとってはクライバー最後のマルシャリンですから...。
by Bowles (2007-03-04 11:20) 

ヴァラリン

ちょっと遅い反応ですけど
> >ルネ・コロが出ているのを見たような
あると思いますよ~~>edcさん。
お目目キラキラ、若き日のコロちゃん@パリスが、脚線美?!をお披露目してますし、ヘレナはアンナ・モッフォです。美人さんですよね~~

それはさておき、

> ローラン・ペリー(Laurent Pelly)演出
> ギリシャの民衆はツアー客

ははぁ。我が家でちょっと前に紹介した「アリアドネ@パリ」の演出も、この演出家なんですよ。やっと結びつきました(^^; 
コメント欄で「観光客を登場させることが多い」と仰っていた方がいらっしゃるのですが、そういうことでしたか。

だから我がダーリンも、ギリシャで俗悪バカンス客(っていうか、ナンパ?)してたってことね。

アリアドネも、いい感じにお洒落でしたから、これもその路線なのかな。機会があったら、観てみたいです。
by ヴァラリン (2007-03-04 19:46) 

Sardanapalus

ロンドンの椿姫さん>
わざわざありがとうございます。TBがつかないのはso-net側の問題かなぁ?何もブロックしてないはずなんですけどね。

Bowlesさん>
>ねっ、最高でしょ?
はいっ、最高でした~(^^)笑いすぎておなかが痛いです。このロットは当たり役マルシャリンの自己パロディみたいな役作りがまた可笑しいんですよね。

>チョイ役女性陣が超豪華
ですね!将来有望な歌手たちが端役を歌っている映像や録音は見つけると無性に嬉しくなってしまったりします。

>この流れに、コヴェントガーデンでのRegiment
ふむふむ、納得です。当然「連隊の娘」は見てませんが、テンポの取り方なんかは想像できますね。早くどこかで映像化して欲しい~。
by Sardanapalus (2007-03-04 23:14) 

Sardanapalus

stmargaretsさん>
>フェリシティ・ロット
>サマースクールのパトロン
おお~あの去年も参加されたサマースクールですか?ロットのコンサートがあるならば、歌手を目指していない私でも参加したいです(^^)おそらく彼女得意のフランス歌曲を素敵に歌ってくれると思いますよ~。

ヴァラリンさん>
>お目目キラキラ、若き日のコロちゃん@パリスが、脚線美?!をお披露目
昨日家にあるビデオを見返してみたら、正にお目目キラキラのコロがちょっとお間抜けな王子を歌ってました(笑)モッフォのエレーヌ(ヘレナ)も素敵です。でも、このドイツ語の映画はオレステス役がカットされているし、他にも色々カットされていて残念です。やっぱりこのオペレッタはフランス語の方がテンポも良くて言葉の響きも(意味は分からなくても)可笑しいですね。

> ローラン・ペリー(Laurent Pelly)演出
>「アリアドネ@パリ」の演出も、この演出家
あ~なるほどー。ぱっと見て「色使いとか設定があのアリアドネと似てるな~」と思ってました。やはり同じ演出家だったのですね。やはり早いとこDVDとして発売して欲しいです。
by Sardanapalus (2007-03-04 23:42) 

Orfeo

気付くのが遅れて、申し訳ありません。
謹んでTBさせていただきました^^;;
by Orfeo (2007-03-07 03:27) 

Sardanapalus

Orfeoさん>
TBありがとうございます。楽しい演出で、オペレッタの真髄を見たように思います(笑)
by Sardanapalus (2007-03-07 19:40) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。