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演劇「マクベス」@Gielgud Theatre [演劇]

丁度私がロンドンに滞在した頃、「スター・トレック(Star Treck)」のピカード艦長役や「X-MEN」のプロフェッサーX役で知られているパトリック・スチュワート(Patrick Stewart)が主演するシェイクスピアの「マクベス(Macbeth)」がロンドンの演劇ファンの間で話題となっていました。最初はあまり乗り気ではなかったのですが、去年は「テンペスト(Tempest)」で好評を博した演出家&主演俳優の組み合わせということで、こちらも公演前日に思い立って劇場窓口でチケットを購入しました。私が見に行った日は丁度Opening Night(初日)ということで、いつもよりドレスアップした観客が多い中、批評が出ていないため3階席は3分の2くらい空席でした。いくつも出る新聞批評の評価を見てから観客が動くロンドンらしい光景ですが、日本じゃありえないなぁ…。

あらすじ:スコットランドの将軍マクベスが、「マクベスは王になるだろう」という魔女の予言を偶然聞いたことから、夫人にも煽られて自分の主人である王ダンカンを暗殺し、王子達を差し置いてその後釜を狙う話です。王を殺した後は自分の野望にとりつかれてしまい、王子達に謀反の罪をきせ、同僚バンクォーや亡命したマクダフの妻子を殺害してまで自分の出世を磐石のものにしようと努力する反面、 良心の呵責に苛まれたり、殺した相手の亡霊に取り付かれてしまって王となっても休まることがなく、結局マクダフの仇討ちにあって絶命します。詳しいストーリーはWikipediaへ。

今回の演出は、イギリスのシェイクスピアといえばおなじみの現代読み替えもの。しかも第1次世界大戦か冷戦時代のロシア/ソヴィエト連邦の戦地のようで、兵士が血みどろで担架に乗って登場したり、魔女達が従軍看護婦の格好をしていたり、当然王様も将軍達も皆軍服で登場したりします。しかも舞台上はどこかの軍施設の地下のようで、レンガにペンキを塗っただけの壁とコンクリートうちっぱなしの床の部屋が、病院になったり、マクベスの屋敷になったり、参謀本部になったり、空気電車が登場したり…フェンスが開閉する大きな資材エレベーターは上手く使われていると思いましたが、バーナムの「森」もマクダフの亡命先の宮廷もレンガとコンクリートに囲まれた部屋の中というのは少し寂しかったですね。

ルパート・グールド(Rupert Goold)の演出で一番気に入ったのは、休憩の前後で同じシーンを違う視点から演じていた点です。それは、マクベスが催した晩餐の途中で殺したバンクォーの亡霊を見て狼狽するという場面。休憩前はマクベスの視点からの上演で、幻覚である血まみれのバンクォーがエレベーターで登場し、談笑するゲストの座るテーブル上に飛び乗り、舞台奥から客席寄りに座っているマクベスに向かってズカズカと闊歩してきます。マクベスは驚いて椅子から飛びのくのですが、一番盛り上がるここで何と暗転!休憩に入ります。休憩後は、再び晩餐の場面が最初から繰り返されます。セリフの合間に挟まれる細かいギャグも、ワインの栓の抜き方も全く同じです。しかし、今度は途中で降りてくるエレベーターに誰も乗っていませんし、扉も開きません。つまり、視点がマクベス以外の人に転換しているのです。視点を変えて2度上演することで、和やかな晩餐の途中で急に狼狽し騒ぎ出すマクベスを呆気にとられて見守るゲスト達と、必死にフォローするマクベス夫人といった「添え物」の人物達が細かく観察できてとっても新鮮でした。これは「マクベス」を見慣れた観客も「ヤラレタ!」と思う演出だったと思います。

しかし、この場面以外はあまり斬新な場面もなく、逆に読み替え演出の弊害が多かったように思います。舞台転換も小物だけで、背景はずっとレンガとコンクリートの地下室で気が滅入ってきますし、特に脇役達のキャラクター設定や描き分けがはっきりせず、魅力的でもなかったというのは残念でした。マクベスやマクベス夫人が出てこない場面が眠いの何の(笑)これは皆軍服かタキシードというのも影響していたかもしれません。蜷川幸雄の演出を見慣れていると、戦いの場面で殺陣が無いのも物足りないですし(^^)俳優達も、スチュアートはちょっとお年ですが流石の存在感と熱演で引っ張るものの、彼についていけていたのはケイト・フリートウッド(Kate Fleetwood)のマクベス夫人と出番の少ないマーティン・ターナー(Martin Turner)のバンクォーくらいという印象。マクダフも王子達も、顔すら思い出せません(^_^;)ということで、私の中では65点くらいの公演でした。


ところでこの演出、ロンドンの批評家達には大好評!インディペンデント紙でもガーディアン紙でも五つ星です。うーむ、流石にそこまでは…(@_@)保守に走りがちなイギリスの演出以外では、もっと面白い演出があると思うんですけどねぇ。グローブ座の「オセロー(Othello)」とか…。


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コメント 4

へぇぇ、、、視点が切り替わる演出、面白そうですね。そのシーンが見てみたいです~
by (2007-11-02 21:28) 

Sardanapalus

りょーさん>
>視点が切り替わる演出
ここは本当に面白かったです!実際にバンクォーがいないとこうなるのか~と、目から鱗が落ちましたよ♪
by Sardanapalus (2007-11-04 01:21) 

ASIS2005改めScara

Sardanapalusさん

ご無沙汰しています。

日本の生活にも慣れてきたのでぼちぼちと
ブログを再開しようと思います。

またよろしくお願いします。
by ASIS2005改めScara (2007-11-04 16:00) 

Sardanapalus

Scaraさん>
ブログ再開のご連絡ありがとうございます!また素敵な写真の数々が見られるかと思うと、今から楽しみです~。合気道のことなども記事にしてくださいね♪新しいブログもRSSに入れさせていただきます。よろしくお願いします。
by Sardanapalus (2007-11-04 22:56) 

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