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オペラ「西部の娘」@ROH [オペラ(実演)]

既に今年も残り3日となってしまいましたが、9月にROHで上演された「西部の娘」がBBC Radio 3で放送されました。これから7日間はオンデマンドで聴き放題ですので、ちょっとお年のランス以外ははまり役の「オペラ唯一のマカロニ・ウェスタン」をぜひ聴いてみてください。

◆BBC Radio 3「西部の娘」ページ◆
http://www.bbc.co.uk/programmes/b00g3tfw




今回の旅行で一番の目玉だった「ドン・ジョヴァンニ」の千秋楽を堪能した翌日、今度はアメリカの荒野へと舞台を移したROHに「西部の娘(La Fanciulla del West)」を聴きに行きました。前日同様、りょーさんと一緒です☆私は2005年にもこの演出で聴いていますが、今回の再演はクーラだけでなく、ミニー役のエヴァ・マリア・ウェストブルック((Eva-Maria Westbroek)も迫力美人で聴き逃せないという情報を得て、期待はぐんぐん高まります(^^)

さて、この異色のオペラはプッチーニの作品の中ではあまり上演される機会がありませんが、一度聴いてみればプッチーニらしく耳なじみの良いメロディが満載ですので西部劇に抵抗がない人ならば楽しめること間違いなしだと思います。特に、アンドリュー・ロイド=ウェバーのミュージカルが好きな人なら、あちこちに聞いたようなメロディが散りばめられていて親近感がわくことでしょう(笑)特に、「オペラ座の怪人」ファンなら「え?これって…あの曲じゃないの?」と思うこと間違いなし!そんなところでも楽しめるオペラです。(そんな楽しみ方する人は私くらいですが)

あらすじは、典型的な西部劇です。開拓地で酒場を切り盛りする女主人ミニーは、出稼ぎ金鉱労働者達のアイドル。特に保安官のランスからは言い寄られて困っているが、実は一度助けてもらったことのある名前も知らない男のことが気になっている。賞金首の盗賊ラメレツが辺りをうろついているとの情報が入る中、ウィスキーの水割りを頼む新参者が酒場にやって来る。ミニーはジョンソンと名乗るその男が気になっていたあの男だと気付くが、ジョンソンもミニーが「あのときの女」だと気付く。実はジョンソンはラメレツで、ミニーの酒場にも強盗に入ったのだが、ミニーがそこの主人と知ると計画を中止し、更には自宅に行く約束を取り付ける。ジョンソンはミニーと楽しい夕食を過ごすが、ランスたちによって正体を知られてしまい「君には知られたくなかった」とミニーの家から飛び出していくが、すぐに追っ手に撃たれて負傷してしまう。そのジョンソンを匿ったミニーはランスとトランプの賭け勝負を行い、いかさまでジョンソンの身柄を勝ち取り、その場はランスも諦めて去る。それから1週間後、ジョンソンが捕らえられて絞首刑にされそうになっているところに、またもミニーが現れて「今まであなたたちに貢献してきた私に免じて許して」と、ジョンソンを助命しミニーも彼と一緒に街を離れる許可を願い出る。ミニーの訴えに心を動かされた街の男達は、ジョンソンの処刑を取りやめて2人の旅立ちを見送る。…なんてお約束な展開でしょう(笑)より詳しいあらすじは、りょーさんのブログへどうぞ。

とにかく、この公演は聴きに行って本当に良かった!!と思えました。まず、主役のウェストブロックが非常に素晴らしかったのです。ミニーは難しい役だと思いますが、高音も低音も余裕があるまろやかな歌声で感情豊かに歌ってくれましたので、男前なミニーのとりこになってしまいました。このきっぷの良さと可愛らしさが合わされば、街中の男が彼女にメロメロなのも納得できます。背が高いので、自宅でジョンソンを待ちながらヘンテコなコーディネートで着飾る場面がまるで案山子(笑)でとっても可笑しかったです。芝居の上手いROHの合唱は、そんな魅力的なミニーに群がる男達の滑稽さを上手く演じてくれました。ミニーには本命がいるのに健気なことですね(笑)

さて、そのミニーが惚れているジョンソン=ラメレツも、荒くれ男なのにテノールという、なかなかはまり役の歌手が見つからない役だと思いますが、今なら勿論ホセ・クーラ(Jose Cura)が見た目も声もピッタリです。2005年の時は、低音と高音の発声が変わるところでガタガタしたような印象がありましたが、今回は上から下まで気持ちよ~く滑らかな発声で歌い上げてくれました。声はこれがスロースターターのクーラ?というくらい出だしから好調でしたし、しっかり役作りしているので「親を継いで仕方なく」強盗にならざるを得なかった境遇をミニーに語る場面や、絞首台で「ミニーには死に様を秘密にしておいてくれ」と頼む場面は、かなり感動的でした。前回はラメレツとしての印象が強く残ったのですが、今回はジョンソンとしてミニーに想いを寄せる姿が記憶に残っています。どちらの場面も、曲がロマンチックで素敵なんですよね~。さすがプッチーニです。

さて、そのジョンソンを勝手に恋敵としてライバル視しているのが成り上がり保安官ランスですが、今回は既にご老体(69歳)のシルヴァーノ・カローリ(Silvano Carroli)。残念ながら上の2人の演技力を伴った歌唱にすっかり隠れてしまって印象の薄~い保安官になってしまいました。2005年の公演で歌ったマーク・デラヴァン(Mark Delavan)は、スケベったらしい嫌味な役作りで存在感があったので、余計におじいちゃんっぽさが強調されてしまいましたね。声も抜けが悪くてPAを通した声がばんばん響くような出来でがっかりでした。ここは無名でいいからギラギラした若手の歌手を連れてきて欲しかったです。

脇役で光っていたのは、何といってもアシュビー役のエリック・ハーフヴァーソン(Eric Halfvarson)です。アシュビーってこんなに目立つ役立ったかしら?と思うくらいあちこちで場を引き締める歌声を響かせてくれました。ミニーにも優しいし、ランスよりもよっぽど保安官っぽいです(笑)「ドン・ジョヴァンニ」の騎士長と兼任だったので連日歌う大変なスケジュールでしたが、しっかりこなしてくれていたと思います。また、ほんのちょっとしかソロがないウォーレス(流しの歌手)、ソノーラ、ハリー(酒場の客)を歌った歌手達も若手が中心で元気良く、あっという間に見せ場は終わってしまいますがそれぞれ役柄に似合った配役でした。(ハリーを歌ったロバート・マレー(Robert Murray)は、前日の「ドン・ジョヴァンニ」でのオッターヴィオと無料ランチタイムコンサートのリサイタルで、計4回も歌声を聴きました。特にファンではないですが、もっとリサイタルで聴きたい歌手です。)

ランス以外はすみずみまで役に似合った歌手が揃った公演で、酒場での小競り合いや開口一番の挨拶「ハロー!」など、随所に笑ってしまうポイントもありつつ、主役2人の優れた歌唱で楽しませてもらいました。


◆りょーさんのブログ記事◆※演出や歌手達についてもっと突っ込んだ面白い記事ばかりです。
<西部の娘 La fanciulla del West>  あらすじ
西部の娘 La fanciulla del West ― ラメレツの縄抜けなど。19 Sep. 2008 ROH
西部の娘 La fanciulla del West 22 Sep. 2008 ROH
ROH「西部の娘」の写真 たくさんでました!
西部の娘 BBCラジオで放送します


La Fanciulla del West

Minnie ...... Eva-Maria Westbroek
Dick Johnson ...... Jose Cura
Jack Rance ...... Silvano Carroli
Nick ...... Bonaventura Bottone
Ashby ...... Eric Halfvarson
Jake Wallace ...... Vuyani Mline
Sonora ...... Daniel Sutin
Trin ...... Hubert Francis
Bello ...... Kostas Smoriginas
Happy ...... Quentin Hayes
Joe ...... Harry Nicoll
Larkens ...... Andrew Foster-Williams
Harry ...... Robert Murray
Sid ...... Adrian Clarke
Billy Jackrabbit ...... Graeme Danby
Wowkle ...... Clare Shearer
Jose Castro ...... Jeremy White
Chorus and Orchestra of the Royal Opera House, Covent Garden
Antonio Pappano (conductor)
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コメント 6

dognorah

私は昨日偶然Radio 3を点けたらやっていたのでそのまま聴き通しました。改めてプッチーニの音楽に聴き惚れました。あまり上演されないので昔は駄作かなと思っていたのですが、何の何の上出来のオペラですよね。幕間にパッパーノがコメントしていましたが、舞台が大がかりになるのとミニー役に適材を見つけるのが難しいからあまり上演されないのだと言っていました。その点今回はすばらしいミニーとそれに加えて絶好調のジョンソンで楽しめましたよねー。それにしてもあのネットをまた思い出してちょっと腹立たしくなりましたが(^^)
by dognorah (2008-12-28 22:39) 

Sardanapalus

dognorahさん>
久しぶりのコメントありがとうございます。私は、時差がきつかったのでネット上のオンデマンドで聴いています。ようやくBBCでもオペラがオンデマンドされるようになりましたね。早速、この素晴らしい公演が聴き放題で嬉しいです。

>それにしてもあのネット
あはは、言われて思い出しました!私の席からはあまり気になりませんでしたけど、舞台横の席の人たちは「何だこれ!?」ですよねぇ。休憩時間に皆で文句をつけたのを覚えていますよ(笑)
by Sardanapalus (2008-12-29 00:26) 

keyaki

「西部の娘」は、あまり上演されない...っていうか、有名歌手が、歌いたがらないと上演されないというオペラですよね。ちょっと前は、ドミンゴ、今はクーラということですね。
このオペラは、はまり役の歌手が、ジョンソン=ラメレツをやらないとね。第一条件は、体格がいいこと、デブはダメ、身長180以上、かわいいタイプはダメ....

>シルヴァーノ・カローリ
20年前のランスと同じ歌手を使うって、まさか、同じ衣裳でいいからとかじゃないですよね。経費削減なんちゃって....(笑

新国でも音楽はプッチーニの西部の娘で、「倉庫の娘」が上演されましたけど、印象に残っているのは、ルーチョ・ガッロの保安官かな....
こんなんもあるよ..ということでTBさせていただきますね。
by keyaki (2008-12-29 11:15) 

Sardanapalus

keyakiさん>
本当にはまり役のクーラが心底楽しそうにジョンソン=ラメレツを演じているので見ている側もどっぷり西部劇を楽しめるんです。ドミンゴのだけでなくて、クーラの「西部の娘」もDVDにして欲しいものです。

>まさか、同じ衣裳でいいからとかじゃないですよね
まさか、ね(^_^;)ランスにあるべきギラギラした感じがなくて枯れちゃってたのが一番問題でしたね…。

>新国でも音楽はプッチーニの西部の娘で、「倉庫の娘」が上演
段ボール箱の山の中で搾取されている出稼ぎ労働者達が…っていうやつですよね。ホモキは面白い演出家だと思いますが、このオペラは笑っちゃうくらい西部劇の設定で楽しみたいです。
by Sardanapalus (2008-12-29 13:45) 

りょー

Sardanaさんの記事待ってました~。コメント遅くなっちゃってごめんなさい。
TBもありがとうございます。

ウェストブローク、この公演のDVDはよく見ていたのよ、なんて語ってましたね。演出も舞台セットもとても素敵なので、大切にしておいて欲しいです。最後のシーンで諦めて去っていくランスとジョンソンが舞台の上のほうの上手と下手でチラリと目を見交わして目礼する、なんて粋なことができるのもこのセットのお陰だし~。新しい歌手でも映像を残して欲しかったです。ちなみに、セカンドキャストのスグーラは若くてギラギラしてたんですけどもねぇ。今はハーフヴァーソンのバリッバリのアシュビーに録音だけでビリビリに痺れています^^
by りょー (2008-12-29 23:34) 

Sardanapalus

りょーさん>
感想が遅くなってしまってごめんなさい!ラジオ聴きながらだと色々思い出します。この演出は本当に西部劇映画を見ている気分になれて、ベタな決めポーズや仲間意識から「漢(おとこ)」っぽさが感じられて良かったですよね。

>セカンドキャストのスグーラは若くてギラギラ
写真で見るだけでも、カローリおじさんとはちがってることは一目瞭然ですよ。ランスだけは、スグーラで聴きたかったなぁ~と少々後悔しています(^^;)
by Sardanapalus (2008-12-30 13:52) 

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