SSブログ

オペラ「リゴレット」@ウェルシュ・ナショナル・オペラ [オペラ(実演)]

6月末~7月頭にかけて行って来たイギリス旅行からもう2ヶ月経ってしまっていますが、ようやくキーンリーサイドがロールデビューを果たしたオペラ「リゴレット」を記事にすることが出来ました。来日に間に合って良かったです(^_^;)


今回の渡英のメインイベントは、何といってもサイモン・キーンリーサイドのリゴレットデビュー!…ですが、期待だけでなく、正直言って「怖いもの見たさ」気分が50パーセントくらいあったことも事実です。だって、見た目からしても(実年齢は置いておいて)、どう考えても大きい娘がいるようなじいさんじゃないですからねぇ~(^^)それから、もうひとつ不安だったのが共演の歌手陣のこと。

ミレニアム・センターのロビー

何せ今回はウェールズの首都カーディフのミレニアム・センター(The Millennium Centre)を拠点とするウェルシュ・ナショナル・オペラ(Welsh National Opera)という地方のオペラハウスなので、普段出演する歌手は世界的には無名な歌手がほとんどで、聴いてみるまで歌手のレベルが全く分からないのです。今回のキャストにはキーンリーサイド以外に名前を聞いたことのある歌手がいなかったので、オペラ公演としての出来には期待していませんでした。

しか~し、始まってみればそんな不安はどこへやら、レベルの高い歌手陣と、元気のいい若い指揮者の演奏をじっくり堪能しました!写真で見る限りは気に入らなかった1960年代のアメリカに設定した演出も、なかなか説得力のある読みかえをしている場面が多く、絶賛とまではいかないまでも舞台としてもかなり楽しめました。舞台写真については、Simonkeenlyside.infoのページに沢山アップされています。やっぱり「リゴレット」はヴェルディの作品の中でも1、2を争う出来のオペラですね~。次から次へと魅力的なメロディが出てくるのでだれることも無いですし、改めて名作であることを確認できました。

当然ながら、この公演を楽しめたのはこれがロールデビューのサイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside)が歌ったリゴレットのお陰です。この演出では最初からマントヴァ公の隣で甲斐甲斐しく世話をしたり取り巻きをおちょくったりするリゴレットの小芝居が楽しめたので、幕が上がると同時に私の目はリゴレットに釘付けでした(笑)今回の演出のリゴレットは、背中のにこぶがあるだけでなく左足も不自由でサポーターをつけないと歩けないという設定でしたが、年齢的には壮年でしたので腰も曲げず、杖なしであちこち動き回っていました。実はちょっと心配していた歌唱面も、マクベスよりも断然安心して聴いていられましたし、ジルダがさらわれてからの見せ場では、客席中からすすり泣きが聞こえるくらいの熱演でした。

特にこの演出で素晴らしかったのは、公爵の屋敷(この演出ではホワイトハウスの大統領執務室)でジルダを取り戻した後、娘を抱きしめながら「もうこれで笑い話になったよ」とリゴレットが言うと、それまで流石にやりすぎたかと目を背けていた取り巻き達がとりつくろうような乾いた笑いを聞かせる所でした。きっと本当の大統領の取り巻き達もこういう反応をするだろうと納得させられる、権力に群がる人間の嫌な部分が良く出ていたので、「こいつら最低!」とリゴレットに思いっきり同情してしまいました。(リゴレットも相当むかつく道化なんですけど、ね。)

それから、最後の場面も見ごたえがありました。まず、公爵の遺体が入っていると信じきっているズタ袋を放り投げたり蹴ったりして浮かれているリゴレットがとにかく哀れです。(この場面、初日はあまりに乱暴に扱ったため、2日目以降はスタッフから「(袋を)あまり高く持ち上げないでくれ」と言われたそうです^_^;)その後、袋の中には公爵の身代わりになった愛娘が瀕死の状態で入っているのを知った瞬間のリゴレットの反応(「後ろに跳び退る」というのはこの動きを言うのでしょう)と、その後の「ジルダ、死なないでくれ!」という声の無い絶叫(実際は声出していますけどね)が再び観客の涙を誘いました。(こうして思い出すだけでもまだちょっとうるっときます。)キーンリーサイドのリゴレットは、生まれつきの障害のせいで、不条理な社会への怒り・憎しみを抱えつつ宮廷(ここではホワイトハウス)で道化を演じることでしか生きていけない自分の生活に心底うんざりしている部分をかなり強調していたので、そんな中でも自分を愛してくれた妻と忘れ形見の愛娘への純粋で深い愛情がより際立ってきて、「リゴレット=いじわるじいさん」というイメージが強かった私には非常に新鮮でした。

ジルダを歌った若いアメリカ人ソプラノのサラ・コバーン(Sarah Coburn)は初めて聞く名前でしたが、ジルダにぴったりの声質としっかりしたテクニックに美貌を兼ね備えたこの先の活躍が楽しみな歌手です。演技も上手くて、女子学生風のヘアバンドとワンピースがよく似合っていました。機会があれば、是非また聞きたいですね。一方マントヴァ公は残念ながら「美しい」という形容詞が笑いを誘ってしまう外見のグウィン・ヒューズ=ジョーンズ(Gwyn Hughes Jones)でしたが、声の方はイメージに良く合っていて合格点。特にこの演出ではアメリカ合衆国大統領という設定でしたので、おっさんでも太っていてもあまり違和感はありませんでした。演技は下手でも「女好きなエロ親父」な大統領としての存在感はありましたので、こんなサイテー男にジルダを奪われてしまったリゴレットの無念さを思うと、それだけでまた泣けてきます。

3人の主役達以外では、殺し屋スパラフチーレを歌ったデヴィッド・ソアー(David Soar)が印象に残りました。ワイルドな外見の長身が役柄にもよく合っていたし演技も上手くて、低音歌手好きな私は大注目してしまいました!最初にリゴレットに売り込んだ後、「スパ~ラ~フチ~レ」と低音を響かせながら立ち去るところの声もしっかり出ていましたし、これからもっと主役級の役で聞きたいと思いました。

今回の公演は、格安のチケット代でとってもお得にオペラを楽しむことが出来ました。このレベルの公演を毎シーズン1,2回キープできれば、ウェルシュ・ナショナル・オペラの未来も明るいですね!ちなみに、この「リゴレット」はBBC Radio3で10月2日に放送される予定になっています。生で聴く興奮には代えられませんが、待ちきれないですね!!


Opera "Rigoletto"@The Millennium Centre
Welsh National Opera

Conductor: Pablo Heras-Casado
Director: James Macdonald

Rigoletto: Simon Keenlyside
Gilda: Sarah Coburn
The Duke of Mantua: Gwyn Hughes Jones
Monterone: Michael Druiett
Sparafucile: David Soar
Maddalena: Leah-Marian Jones


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 2

Kew Gardens

ほんと、熱演でしたね。 きびきびとしたクリーンカットKeenlysideが、ねちねちしたじーさん(私のRigolettoイメージ)と結びつかないので、どんなものだろうかと、ちょっと怖いものみたさがありました。 でも、オペラが始まると舞台に釘付け。 1960年代、ケネディー政権(らしい)下、ポリオを患ったRigolettoという設定が逆によかったのかもしれません。 型にはまったピリオドドラマふうだったら、ビジュアル的にやはりあわなかったかも。 そういう正統派は、10年先にでもとっておいてもらいましょう。

Act 2の最後、復讐を誓うPoiche fosti da me maledettoの熱唱も素晴らしかったし、娘が瀕死の状態だとわかった時の、悲痛な場面も胸をしめつけられるようでした。 初日は、指揮者がちょっと暴走気味だったり、マントヴァ公役が代役で、全く魅力がないというちぐはぐさがありましたが、ジルダや、スパラフチーレの熱演で、全体的にレベルの高い公演だったと思います。 終演直後、隣にいたおじーちゃんは、ほーっと一息つくと、”素晴らしかった、一流の公演だったね”と話しかけてきました。 このおじーちゃん、かなりオペラ好きらしく、有名なアリが歌われるところでは、時々鼻歌を披露してくださいました。 とほほ。

ジルダ役のソプラノはかなりきゃしゃで、Keenlysideも重さを感じないといっていましたが、彼女が入った袋をもちあげてふりまわすのは、やはりやりすぎだったんでしょうね。 見たとき、びっくりしてしまいましたもの。 火事場の馬鹿力というのはあるけれど、この場面では変だわよと思った私です。 

BBC Radio 3あたりで放送してくれないかなぁ~と期待していたのですが、やってくれるのですね! 情報ありがとうございます。 スケジュールにいれとこう! 来週末から、待ちに待ったROHの公演が始まりますね。 状況は違いますが、娘を思う父親を Keenlysideがどんなふうに演じて歌ってくれるのか、とても楽しみです。 
by Kew Gardens (2010-09-03 23:15) 

Sardanapalus

Kew Gardensさん>
>ちょっと怖いものみたさがありました。でも、オペラが始まると舞台に釘付け。
ほんとほんと、私もいい方向に予想を裏切られて嬉しい限りでした。まだ若々しいキーンリーサイドには、今回の演出は良く合っていましたよね。10年後は、ぜひ伝統的な演出で見たいものです。

>Act 2の最後
今思い出しても鳥肌が立ちます(^^)ああいう場面はキーンリーサイドお得意ですから、次のリゴレットでの進化も楽しみです♪

>BBC Radio 3あたりで放送してくれないかなぁ~と期待していたのですが、やってくれるのですね!
そうです!丁度私が見た日に収録していたので、早く詳細が発表されないかと待っていました。もしかしたらウェールズのみのラジオ放送かも!?なんて聞かされていたのでRadio 3で放送してくれるのは本当に嬉しい限りです!私もしっかり準備しておこうっと。
by Sardanapalus (2010-09-06 21:57) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。