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オペラ「椿姫」@神奈川県民ホール① [オペラ(実演)]


現在来日公演中のロイヤル・オペラハウス(Royal Opera House)の、9月12日に行われた「椿姫(La Traviata)」初日公演を見てきました。個人的には、サイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside)の5年ぶりの来日、しかもまだ聞いたことの無いパパ・ジェルモン役を一番楽しみにしていました。しかも、私の大好きなアントニオ・パッパーノ(Antonio Pappano)が指揮をする大好きな演出(作品自体は苦手ですが)を日本で見られるんですから、テンションもあがります!

当日は少し早めに神奈川県民ホールに到着し、終演後のオフ会の集合場所にしていたステージドアをチェックしようと思ってステージドアに向かったところ、そこには入り待ちの皆様がプログラムを握り締めて暑い中辛抱強く待っていました。と、ふと向こうからジャケットを着て歩いてくる人物が。「この暑いのにツイードのジャケットなんて、まるでキーンリーサイド並みに着るものに無頓着な人がいるもんだ」なんて思っていたら…何のことは無い、本人でした(^_^;)テイクアウトのコーヒーを片手に現れたキーンリーサイドは待っていたファンたちに快く、でも汗だくになりながらサインをしてくれましたが、涼しげな白いワンピースの女性スタッフからの「サイモン、暑くないの!?」とのツッコミには当然「暑い!」(笑)サインを一時中断してジャケットを脱いでいました。会場に着いてすぐにこんな楽しい場面に出くわすとは、なんてラッキー♪少なくともお目当てのキーンリーサイドはキャンセルしないことが分かったわけですから、足取り軽く会場内に向かいました。



オペラが始まる前に、ロイヤル・オペラのオペラディレクターであるエレイン・パドモア(Elaine Padmore)が登場し、既に公表されていましたがヴィオレッタ役の変更に対するお詫びと代役の紹介が丁寧に行われてから始まった初日ですが、全体の出来としては…まあまあって感じでしょうか。ちょっと長くなってしまいますので、今回は主役の歌手3人(というか4人)に絞って記事にしてみたいと思います。

まずは主役のヴィオレッタ。つい先頃のロンドンの再演でも好評だったゲオルギューが開幕前からキャンセルしてしまって楽しみがちょっと減ってしまいましたが、それなりの代役が歌ってくれるはずとの期待から、初めて聴くエルモネラ・ヤオ(Ermonela Jaho)を楽しみにしていました。が、この日は冒頭からヤオは本調子じゃなかったように思います。ビブラートがきつくてちょっとかすれている上にくぐもった感じの声で、ヴィオレッタが歌うときはパッパーノが必死に「音量抑えて」の指示をオケに飛ばしながらの演奏となっていました。しかも、1幕最後の高音が上手く出ず、2度もかすれてしまった時にはあの悪夢のような「椿姫」を思い出してしまいましたよ~(>_<)最後の見せ場は何とかかんとか体裁は保ったという程度で、2幕以降に盛り返してくれることを祈るしかできませんでした。

ところがところが、2幕が始まる前にもまたもやパドモア女史が登場し、ヤオはアレルギー症状がでてこれ以上歌えないため代わって若いアメリカ人ソプラノのアイリーン・ペレス(Ailyn Perez)が2幕以降を歌うことになって、急いで衣装を着けています、という説明がありました。そんな訳で途中で主役が交代するどたばたの初日となりましたが、そんな中登場したペレスは、彼女なりのヴィオレッタ像もしっかり出来ている上に歌唱力もかなりのもので、若いのに立派な舞台度胸を見せてくれたと思います。小柄ですが演技力もあるので、今後の活躍が楽しみな歌手です。3幕で手紙を読むときだけはちょっと元気が良すぎと思いましたが、舞台に全力投球をしている様子と、声の強弱を上手く使い分けた歌唱が好感度大です。別れる前にアルフレードに「愛してるわよね?」と何度も確認する所など、真に迫っていて切なくなってしまいました。当然のことながらカーテンコールでは一番の大歓声を受けていましたね。いや~それにしても、ペレスがアンダースタディで待機してくれていて本当に良かったです。

1度に2人のヴィオレッタを相手にすることになったアルフレード役のジェームズ・ヴァレンティ(James Valenti)は、余りいい評判を聞かなかったので覚悟していたにも拘らず、オペラが進むに連れて印象は悪くなるばかりでした。普通、歌っていけばエンジンもかかってきて問題点は改善されるものだと思うのですが、ヴァレンティの場合は、集中力が続かないのかだんだん粗くなる歌唱とぱっとしない演技しか印象に残りませんでした。特に、1幕こそ気付かなかったのですが、「常にデクレッシェンド」な歌唱の癖が非常に気になりました。どうやら単に息が続かないだけらしく、息継ぎの直前は1階5列目に座っていても何を言っているのか聞き取れず、しかも音量が大→小(息継ぎ)大→小を繰り返すというでこぼこ歌唱でノれないことこの上ないです。声自体は悪くないと思いますので、発声法(呼吸法?)をしっかり学びなおした方がいいのではないでしょうか?このレベルで今年のタッカー賞とは…アメリカにはよっぽど歌手がいないのか、と思わされてしまいます。しかも、一度に複数のことが出来ないタイプのようで、歌いながら舞台上を動くと、まるでターミネーターのようなギクシャクとした動きになってしまい、自由に動き回るペレスやキーンリーサイドと一緒の場面などは思わず失笑してしまいました。残念ながら、今後もあまり好きにはなれそうにないタイプの歌手でしたね。

そして、お目当てのサイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside)の歌うパパ・ジェルモンですが、歌の方は絶好調と言っていい出来だったと思います。合唱・重唱部分も手を抜かずきっちり歌ってくれるキーンリーサイドですので、パパってここはこんなメロディ歌ってるんだ~と思わされる部分も多かったです。ヴィオレッタを説得する場面では、遊びで貢がせているのではなく真剣にアルフレードを愛していると分かった後も、愛娘の為にヴィオレッタに身を引いてほしいと懇願する父の心情の揺れがしっかり表現された歌唱を聴かせてくれましたし、その後のアルフレードとの場面でも、聞かせどころのアリアだけでなくその後のカバレッタもまるでセリフを話しているかのように滑らかに、時に厳しく時に優しく歌ってくれたので、2幕はまるで普通の演劇を見ているような充実感がありました。特に、アルフレードを説得しに再登場する時にステッキを真横にすっと伸ばして出口をふさいだ時は、ステッキがまるで剣に見えましたよ!睨み付ける眼差しにはふがいない息子に対する怒りが満ちていて、いつも優柔不断なアルフレードにイライラする私は「パパかっこいい!」と目がハートになってしまいました♪まあ、落ち着いて考えると、古臭い田舎の上流階級社会にしがみついている頭の固いおっさんな訳ですが(^_^;)バリトン好きなので、ついついいつもパパの肩を持ってしまいます。親子で口論した後、結局アルフレードがヴィオレッタを追いかけて飛び出していくのを「待ちなさい!」と一括する場面でバシン!と机を叩いたら眼鏡がすっ飛んでしまい、それを老人とは思えない反射神経でしっかりキャッチしていたのにはこっそりウケてしまいましたけど、そのあとの怒りの眼差しにまた「パパ素敵!早くアホ息子を追いかけて、ヴィオレッタを助けてあげて~」と目がハートになってしまいました(笑)不満な点があるとすれば、ちょっとやりすぎ感のある足を引きずる演技ですね。そのままではとても大きい息子がいるようには見えない&聞こえないキーンリーサイドなので足を引きずることで「老い」を出そうと思っているのでしょうけど、椅子を運んだりするので足が不自由というのは無理がある設定かと思います。それに、足が悪いならステッキは机の上に置いたりせずずっと持っていなさいよ、とついツッコミを入れてしまいました。毎回演技には修正を加えてくるキーンリーサイドですが、今後の公演ではどうしてくるでしょう?

ちなみに、ロールデビューだったミュンヘンでのアリア「プロヴァンスの海と陸(Di Provenza il mar il suol)」から2幕最後までの音源を以下のプレイヤーで聞くことができますので紹介しておきます。今回の日本公演では、カバレッタのテンポも丁度良く、この時よりもいい出来の歌唱でしたので、NHKの映像収録が非常に楽しみです。誰もキャンセルしないでよ~。


※うまく再生できない方はこちらからどうぞ。
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コメント 6

momo

16日に観てきました。ヤオさんが最初から最後まで歌いました。最初ちょっと不安定かな?と思いましたが、どんどん調子を上げてスピントの効いた美しい声だったと思います。この前のトリノのデセイよりずっとヴィオレッタに向いてると思いました。

ただ、ゲオルギューの様なたおやかさがなかったかな、、、?と私は思いました。現代的な性格描写を狙ってるのか、ジョルジョ・キーンリサイドが「あなたは幸せにならねば、、」とか話しかけると拒絶の仕草がびっくりするくらいきっぱり激しいんです。好みが分かれるかも、、。

ヴァレンティは 背が高かった、、、、という印象です(^^;;)。仰るように演技が苦手そう、、。声も不安定。でもカーテンコールではブラボーの声ももらってましたけど、、。

キーンリサイドは 脚が悪い、、、ハズなのになぜか倒れた椅子をヒョイっと避けてましたけど、演技といい声といい、私は感激しました。今回はアリアを歌う前のにコートを脱いでました。最初汗を拭いた時は緊張のあまり、、という演技なのかな?と思ったんですが、その後も何回か汗を拭きふき歌ってたのできっと暑かったんでしょうね(^0^)。

写真、見せて下さってありがとうございました。素顔も素敵ですね~(^0^)。
by momo (2010-09-17 20:14) 

Sardanapalus

momoさん>
16日の公演の様子をコメントしてくださり、ありがとうございます!ヤオは持ち直したようですね、良かった良かった。しかし、そんな強情な性格のヴィオレッタなのですね?確かにちょっと好みが分かれそうです。

>キーンリサイド
>演技といい声といい、私は感激しました。今回はアリアを歌う前のにコートを脱いでました
声質やストイックな演技と時々出てくるツッコミどころに違和感を感じる方も多いと思いますが、私もキーンリーサイドでパパを聴けて本当に良かったです。あ、アリアの前にコートを脱ぐのはデフォルト演出です。ヴィオレッタと対決するときはくつろげないので着たままですが、アルフレードと2人きりになると気を許して脱ぐんです。でもその下もフロックコート(笑)そりゃ汗も出るわけですね。

この写真はなかなか上手く撮れました。喜んでいただけて嬉しいです♪
by Sardanapalus (2010-09-18 20:50) 

りょー

>ツイードのジャケット
亜熱帯のニッポンで、そりゃ暑いよキーンさん^^;
でも、サスペンダー姿のキーンさん、カッコいいですね♪
波乱のROH公演ですけど、キーンリーサイドがお元気そうでなによりです。
by りょー (2010-09-18 22:29) 

Sardanapalus

りょーさん>
>>ツイードのジャケット
>亜熱帯のニッポンで、そりゃ暑いよキーンさん^^;
ね、無謀ですよね。この日は夜にレセプションがあったからジャケットで来たのかもしれませんが、出待ちの時はベスト姿でした(^^)いくらなんでも暑いと思ったんでしょうね。とても機嫌が良くてテンションも高く、日本の滞在を楽しんでいるようでした。このまま公演を乗り切って欲しいですね。
by Sardanapalus (2010-09-18 23:47) 

Odette

Sardanapalus様、初めまして。Madokakip様のところから
参りました。

私もキーンリーサイド様のパパ(&パッパーノの指揮)を楽しみに
この公演を鑑賞いたしました。横浜での公演です。
3階席におりましたので、すっ飛んだメガネをキャッチというところまでは
チェックできませんでした。こちらで細かい様子を知ることができ、
嬉しいです。
当日はとても早く着いてしまい、開場前からしばらくロビーのベンチで
チラシを見ていたのですが・・・こんなことなら楽屋口に行ってみれば
よかったです!そしたらSardanapalus様にもお会いできましたのに。
今回は新幹線の時間の都合で出待ちもできませんでしたので、
余計に残念です。「入り待ち」という概念そのものがありませんでした!

今回の公演で、すっかりキーンリーサイド様に魅せられてしまいましたので
これからもこちらを覗かせていただきますね。拙ブログともども、
よろしくお願いします。
by Odette (2010-09-26 04:18) 

Sardanapalus

Odetteさん>
はじめまして!コメントありがとうございます。

>私もキーンリーサイド様のパパ(&パッパーノの指揮)を楽しみに
わ~、同志ですね♪今回の公演はハプニングもあって純粋にオペラを楽しむという訳にはいきませんでしたが、この日のキーンリーサイドは素晴らしい演技と歌唱でしたよね!

>こんなことなら楽屋口に行ってみればよかったです!
私は偶然タイミングが良かっただけでしたが、開演前から好きな歌手に会えるとテンションが上がりますね。Odetteさんもあの時間館内にいらっしゃったなんて、お会いできず残念です。

Odetteさんのブログ、ぜひリンクさせてください。今後もよろしくおねがいしま~す。
by Sardanapalus (2010-09-26 23:47) 

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