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オペラ「フィガロの結婚」@ウィーン国立歌劇場 [オペラ(実演)]


1月前半のウィーン国立歌劇場はモーツァルトのダ・ポンテオペラ祭(笑)状態でしたが、そのうちの「フィガロの結婚」を見てきました。楽しみにしていたキューマイヤーが早々に伯爵夫人を降りてしまったのは残念でしたが、お目当てのサイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside)は元気に伯爵を歌ってくれました。

キーンリーサイドは、伯爵を演じなれていることもあってか、余裕を感じさせる歌唱と演技で圧倒的な存在感でした。レチタティーボやアリアを表情豊かに歌いこなすだけでなく細かい演技面も面白くて、いっぱい笑わせてもらいました。今回は、あまり押しつけのない演出だったので、キーンリーサイドの雰囲気によく合った、困ったちゃんなハイテンションエロ伯爵像を見せてくれたと思います。夫人の間男をクローゼットに閉じ込めたと思い込んでいる時のにやにや顔や、偽物のラブレターを書いていないと否定するフィガロを問い詰める様子や、アントーニオを部屋から蹴りだす姿、バルバリーナに「愛してくれれば欲しいものをなんでもあげると仰ったわ」発言に「え、そ、そんなこと言ったかな~~(汗)」と狼狽える姿には、思わず吹き出してしまいました。この他にも、そこここの場面で自分が一番賢いと勘違いしている姿は、「セヴィリアの理髪師」におけるバルトロや、もっと言えば映画「ホーム・アローン」のお間抜け泥棒コンビを彷彿とさせる滑稽さがあり、常に大騒ぎする伯爵に大いに笑わせてもらいました。正にこちらの批評のタイトルの通り「キーンリーサイドの夜(Le Notte de Keenlyside)」と呼ぶに相応しい大活躍でした。

さて、そんなノリノリの伯爵に対抗するフィガロたちですが、全体としてはバランスの取れた丁寧な歌唱をしていたと思います。フィガロ役はルカ・ピサローニ(Luca Pisaroni)。フィガロにしては大人し目の役作りでしたが、感情豊かなレチタティーボと端正な歌唱は好印象でした。傍若無人な伯爵をのらりくらりとかわしていたのに、あまりにもあれこれと結婚式を先延ばしにされて最終的に怒りを込めた「マーチですよ!さあ、行きましょう」にリアリティがありました。今後も、可愛らしいワンちゃん2匹に元気をもらってばんばん活躍してほしいものです。スザンナを歌った若手注目株のアニタ・ハルティッヒ(Anita Hartig)は、演技が上手くてスザンナにはぴったりでしたが、歌唱的にはもう少し研鑽が必要かな、と感じました。高音がキンキンで伯爵夫人の役にアップアップしていたオルガ・ベズメルトナ(Olga Bezsmertna)は見た目は悪くないので、これから頑張ってもらいましょう。ケルビーノは元気いっぱいのレイチェル・フレンケル(Rachel Frenkel)が好演していました。歌も癖がなく、思春期真っ盛りの少年役がとてもはまっていたと思います。脇役のおバカトリオは皆さん芸達者で(一番重要!)、アンサンブルも大切にしていて好感度大でした。特に、ドン・バジリオ役のパヴェル・コルガティン(Pavel Kolgatin)は、あれこれ小芝居を仕掛けてくる伯爵にお付き合いして、あれこれ細かく動いていて楽しませてもらいました。それと、 ペーター・イェロシッツ(Peter Jelosits)のドン・クルツィオが、裁判の場面でもさもさのカツラをすっ飛ばす場面は、オケメンバーも大うけなほど、本当におかしかったです。

そんな感じで、歌手陣はオペラを楽しませてくれたのですが、どうも調子が乗らない、というかタイミングがちぐはぐだったのが、 ジェレミー・ローラー(Jeremie Rohrer)の指揮でした。序曲からオーケストラが分解しそうになってヒヤリとさせられましたが、その後も歌手のタイミングとずれる、弦楽器と管楽器がずれる、といった箇所が何度かあり、その度に分かりにくい指示を出していました。指揮者であれば、ちょっとずれてもささっと修正してほしいものですが、どうもだらだらとしてあまり感心しない指揮で、経験の浅い若手歌手たちが歌いだしのきっかけやテンポ設定を指揮に合わせようとして四苦八苦していたのが気の毒でした。

また、ここ最近のレパートリーになっている演出ですが、幕が上がった途端、あのヤーコプス指揮でDVDになっている演出だということに気づきました。かなり伯爵中心の演出になっていて、読み替えもなくて心穏やかに見ていられるのですが、どの場面も複数の絵が舞台上を埋め尽くしただけの省エネ舞台はちょっと退屈です。ただ、こういった歌手の自由度が高い演出の方が、ウィーンのようにリハーサルもなく上演するような劇場には向いているように思います。あちこちアラもありましたが、歌手たちの力で見終わった後のテンションが上がるような、楽しい公演となりました。

Le Nozze di Figaro
Wolfgang Amadeus Mozart

Jérémie Rhorer | Dirigent

Simon Keenlyside | Conte d'Almaviva
Olga Bezsmertna | Contessa d'Almaviva
Anita Hartig | Susanna
Luca Pisaroni | Figaro
Rachel Frenkel | Cherubino
Donna Ellen | Marcellina
Pavel Kolgatin | Basilio
Peter Jelosits | Don Curzio
Sorin Coliban | Bartolo
Clemens Unterreiner | Antonio
Bryony Dwyer | Barbarina

◆ウィーン国立歌劇場の公演ページ

◆SimonKeenlyside.infoの公演ページ



◆カーテンコールの様子





おまけ:今シーズンのセーフティカーテンは、意外とまともでした。


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コメント 2

Kew Gardens

>キューマイヤーが早々に伯爵夫人を降りてしまったのは残念
ホントに! 新星?と期待していたところもありましたが、夫人が出てくるたびに、あぁ・・・と思ってしまいました。 
>伯爵に対抗するフィガロたち
これからに期待ってところでしょうかね。 Pisaroni=Figaroはご本人のイタリア人らしからぬ生真面目さが、ちょっと邪魔しているように感じましたし、怒っているところは、妙に本物ぽかったです でも、脇役のみなさんのおかげで、しまった舞台になっていたと思います。 それにしてもKeenlysideの
>困ったちゃんなハイテンションエロ伯爵
もしかして地かしら? Salzburgより、自由にやっている感じはしたのですが、そもそも演出があってないような舞台でしたから。 でもこんなことを言ったら、みなさんに怒られてしまいますね。
by Kew Gardens (2014-01-30 00:01) 

Sardanapalus

当日はご一緒できて、いっぱいおしゃべりできて楽しかったです☆

伯爵夫人は惜しかったですね~。ほかの出演者は、演技もうまいし勢いがあって新鮮なフィガロの結婚になっていたと思います。

>それにしてもKeenlysideの
>>困ったちゃんなハイテンションエロ伯爵
>もしかして地かしら?
はい、私も結構「地」の部分が多めな伯爵像だと思いました。特に、落ち着きなく常に動き回っていたりするところとか(笑)本人も楽しんでいたようですし。
by Sardanapalus (2014-01-30 20:51) 

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