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オペラ「ドン・ジョヴァンニ」 [オペラ(実演)]

去年秋に来日したバイエルン国立歌劇場(Bayerische Staatsoper)のモーツァルト誕生日関連イベントは、誕生日前後2週間強に渡って開催される「モーツァルト祝祭週間(Mozart Festwochen)」での一連の有名オペラ公演です。それぞれ豪華キャストを揃えた公演の中でも、今回は特に私好みの歌手が集まっていた「ドン・ジョヴァンニ」を見てきました。日本に帰国する前にミュンヘンに行くことを決めた一番の理由だった訳ですが、満点とは行かないまでも期待を裏切らない満足度の高い公演でした。気に入った歌手がいっぱいということは、記事も長いのでお時間のあるときにどうぞ~。

とにかく男声ソロ歌手陣は正に私の好みのど真ん中(笑)これ以上に個人的に注目している歌手が大好きなオペラの公演に揃うことは、これからも無いような気がします。キーンリーサイドのジョヴァンニは見れる限り何度でも見たいし(何せ同じ演出でも毎回違うんですよ^_^;)、演技も上手いスペンスのオッターヴィオは苦手なこの役への共感度を増やしてくれそうだったし、レマルはコミカルな演技が上手そうだからレポレッロはぴったりだし、更にモルの騎士長だし!という感じで見る前からワクワクドキドキ。ついでに、「みじめな(Shabby)」ジョヴァンニが見れるという演出も楽しみだったわけですけどね(笑)

序曲が終わって幕が開くと、まあ、聞いたとおり一面真っ赤の舞台が広がっています。終始とにかく赤くて薄暗い!(^_^;)ってことで目にはとっても疲れる公演でした。(休憩時間に場内の照明がつくと目がちかちかするくらいでしたから、よっぽど暗かったんでしょうねぇ)衣装はそんなに冒険的なものではなくて、女性陣は黒と赤を使ったシンプルなドレス、男性陣は黒中心の衣装で、騎士長像は真っ白けでした。演出は、一面赤くて装飾の無い舞台が微妙に変化することで場面を転換するのですが、メリハリのない舞台装置のお陰で歌手達の動き自体に集中できたのは面白かったかもしれません。それでも、屋外だろうと結婚式だろうと夜だろうとひたすら赤い舞台というのは、やっぱりちょっと退屈でした。一番印象的だったのは墓地のシーンで、騎士長を含めた10騎ほどの白い騎馬像が赤い背景にずらりと並んでいる姿はなかなか印象的だったし、騎馬像がいきなり歌いだしてビックリしたくらい静止していたモルの根性にも敬意を表したいです(笑)墓地と言うよりも記念広場みたいでしたけど。他は、ジョヴァンニの家の中の広間(のはず)の、巨大な赤い手のオブジェとそれを丸く囲んでいるキンキラキンな多数の椅子は趣味も悪いし、騎馬像になっている騎士長が晩餐にやってくるときは徒歩なのに、本物の馬に乗った死神が付き添ってくるのは何故なのか気になるし、ツェルリーナとマゼット、アンナとオッターヴィオの場面はなんとも工夫の無い演出で、これで演技の出来ない歌手が揃っていたら部分的に寝ちゃいそうです(笑)

ということで、今回のキャストはこの演出には大正解の選択だったと思います。特にキーンリーサイドは現実味のある役作りのジョヴァンニが得意なので、こういった自由度と歌手依存度の高い演出だと舞台上にいる間は次に何をするのか目を離せません。基本的なジョヴァンニの性格はマクヴィカーの演出とそんなに違わなかったですね。特に騎士長のことは馬鹿にしきっていて、しかも大笑いしながら殺しちゃいましたから、正にレポレッロも絶句ですよ、こりゃ。でも、その後すぐに正気(?)に戻って「レポレッロ?どこにいる?」というときは本気でレポレッロを探してましたから、あそこまで「悪」ではないみたいですけど。このジョヴァンニが女性を口説くのはリストに名前を追加する目的のためだけで、全然楽しんでませんでした。ツェルリーナに歌いかけるところでは、返事が中々煮え切らないので途中でイラついてきてため息をついたり(もちろんツェルリーナの見てないときですが)。

それでもまだきちんとした服を着ている間は社会ルールの枠内に留まって行動していましたけど、晩餐の場面になってボロシャツに半ズボンにはだし姿になってからはもうやりたい放題大暴れ!レポレッロしか見ていない「私」空間での傍若無人な振る舞いは、予告編としてあげた写真のようにスパゲッティつかみ食い(「上手い料理だ」の辺り)にはじまり、ワイン5杯を立て続けにあおったり、つまみ食いしたレポレッロをいじめるために丸パンを投げつけまくり、それを投げ返してきたレポレッロとかなり真剣なキャッチボールしたり(会場大爆笑)、説得しに来たエルヴィーラのドレスにワインぶっかけたり、まあ大騒ぎ(^_^;)変にナチュラル・ハイなジョヴァンニと、彼に振り回されてオロオロする一般人のレポレッロとエルヴィーラの差が激しくて、こんなに笑った晩餐シーンは初めてですね。歌のほうは、'La ci darem'とセレナーデは柔らかく、地獄落ちのシーンは激しく、といった感じで変幻自在で楽しませてもらいました。このジョヴァンニなら、カーテンコールでの大歓声も納得です。

そして今回、初めてオッターヴィオを退屈に思わず見ていられました。その第1の理由はまあトビー・スペンスの演技力にあるわけですが、第2の理由としては、プラハ初演版だったということがあります。この初演版、オッターヴィオの1幕のアリアと、エルヴィーラの2幕のアリアが無いんです。私はこの1幕のオッターヴィオのアリアが苦手で苦手で(笑)、ただでさえ魅力の無いオッターヴィオが余計に退屈に感じられてしまっていたのです。スペンスの歌は、1幕は時々不安定でしたが2幕のアリアは今まで何人か生で聞いた中で一番の出来だったと思います。(まあ、スペンス以外はそんなに有名な歌手達ではありませんが)映像では誰が歌っても(個人的に)退屈な役ですが、いつかはスペンスのオッターヴィオも映像にしてほしいなぁ~。相変わらずちょっと抜けてる男ですが、スタイルも良くて爽やかなこのオッターヴィオなら「まあこれはこれでいいかな」と思えます。

ジョナサン・レマルのレポレッロは予想通り、飄々とした感じの、世渡りの上手い召使でした。2幕頭も、「もうごめんです!」と舞台袖に去って行った後、ジョヴァンニの「レポレッロ!」という呼びかけになが~い間をとってジョヴァンニをいらだたせた後、ようやくぶっきらぼうに「シニョ~レ」と返したのに、「金貨3枚だ」と聞きつけたとたんに袖から飛び出してきたりして(笑)ひとつだけ残念だったのは、時々オーケストラと歌が大きくずれてしまっていたことですね。

これで、女声も同じくらい好みだったら最高でしたけど、エルヴィーラのヴェロニク・ジェンスのちょっと落ち着きすぎの感じもあるけど流石の歌唱に対して、ツェルリーナのアリソン・ハグレーはちょっとおばさんだしキンキン声で今一だったですし、アンナのマルガリータ・デ=アレラーノに至ってはアリアの途中で声量がガクッと落ちて、アップアップの状態でようやく歌いきったり、終始安定しない歌唱で、演技も余り…で、一人だけカーテンコールでの歓声も無く、寂しいものでした。おそらく不調だったんでしょうけど、あの状態ではガックリ。私がこのオペラで気になるのは男声歌手とエルヴィーラなので、他はどうでもまあ楽しめるんですけどね(笑)

それにしても、ジェンスとスペンスを使っておいてアリアの少ない初演版を採用するとは、勿体無い公演でした。特にエルヴィーラの追加のアリアは好きなので聞けなくて残念です。「セヴィリアの理髪師」の伯爵の大アリアのように、話の展開としては無い方がスピード感があって断然面白いとは思いますけど、歌える人には歌って欲しいなぁ~。


今回はミュンヘンのキーンリーサイドのファン友達に連れられて終演後ステージドアに行ってみたのですが、何とキャスト皆で揃ってレストランに行くようで、一気に同時に出てきてくれたので一大サイン会のようになって大騒ぎでした。そんな中プログラムにサインしてもらったら、レマルはペンのインクが漏れるほど強く書いてくれたので(右下)もう一度きちんと書いてもらい(左下)、最後に出てきたキーンリーサイドにはスペンスサインに上書きされた(左上)ので「あ~トビーが~」っと言ったら、「ん?トビーは気にしないョ」とか言いながら勝手にTOBY SPENCEと書き直してくれたり(右上)と、終演後も主従コンビ揃ってネタを提供してくれました(笑)


演出:ニコラス・ハイトナー(Nicholas Hytner)
指揮:イーヴォ・ボルトン(Ivor Bolton)

ドン・ジョヴァンニ:サイモン・キーンリーサイド(Simon Keenlyside)
レポレッロ:ジョナサン・レマル(Jonathan Lemalu)
ドンナ・アンナ:マルガリータ・デ=アレラーノ(Margarita De Arellano)
ドンナ・エルヴィーラ:ヴェロニク・ジェンス(Veronique Gens)
ドン・オッターヴィオ:トビー・スペンス(Toby Spence)
ツェルリーナ:アリソン・ハグレー(Alison Hagley)
マゼット:スティーヴン・ヒュームズ(Steven Humes)
騎士長:クルト・モル(Kurt Moll)


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Orfeo

おお~っ!気合の入ったレヴューですねえ^_^;;
私は男だから、やはり女声キャストにまず目がいきますが、ヴェロニク・ジャンスとアリソン・ハグレーの揃い踏みなら、なんでも許しちゃいます(笑)。男声陣も揃っているし、おまけにハイトナーの演出だし・・・いいなあ、是非観たいです!
by Orfeo (2006-02-06 19:01) 

keyaki

日本からの初レビューですね。
遅ればせながら、お帰りなさいませぇ。

いつもながらの詳細なレビュー楽しく拝見!
「赤のドン・ジョヴァンニ」ですか。深い赤ではなく、けっこう明るい赤のようですから,目が疲れるでしょうね。
確か、人間様は赤い部屋に閉じ込められると発狂するんでしたよね。毎日見に行ったらヤバいかもですね!
男性陣充実だったんですね。

>「金貨3枚だ」
うひょ、傍若無人な上にケチなドン・ジョヴァンニじゃ。
>スパゲッティつかみ食い
何人? トルコ人かな? 

次は「フィガロの結婚」のレビューですね。楽しみにしてます。
so-netほんとに激重ですね。
by keyaki (2006-02-06 23:41) 

Sardanapalus

Orfeoさん>
>気合の入ったレヴュー
男性キャストだけで埋まってしまって女性まで詳しく書けませんでしたが、ジャンスはなかなか良かったです。個人的にはもっときつい感じの女性が歌ってくれるとイメージぴったりなんですけどね(^_^;)

keyakiさん>
>日本からの初レビュー
これからもよろしくお願いしますね~。せめてブロードバンドなら、たまってる記事もさっさと連続投稿してしまおうと思えますが、未だにナローな上に最近またso-netが重たいのでついつい更新が滞ってしまいます。寒いし~(笑)

>>「金貨3枚だ」
>うひょ、傍若無人な上にケチ
しかも、3枚って言ったのに最初はぽ~んと1枚投げただけ…あんなことしといて(^_^;)流石にレポレッロも引かずに3枚貰うまで粘ってましたけど、本当にどケチなジョヴァンニでした。

>>スパゲッティつかみ食い
う~ん、何人でしょう?…イギリス人?(笑)そういえば、このシーンでスパゲッティが熱すぎて手を火傷したって言ってました。わ~カッコワルイ(笑)心の中では「アチチチ」とか言いながらスパゲッティにかじりついて「美味い美味い」と歌っていたのかと思うとまた可笑しいですけど。
by Sardanapalus (2006-02-07 20:41) 

euridice

Sardanapalusさん
お帰りなさい。今年は寒い冬です。

キーンリサイドのドン・ジョヴァンニ、来日の舞台を思い出しながら読みました。またまた、楽しそうな舞台ですね。

>>>「金貨3枚だ」
>>うひょ、傍若無人な上にケチ
>しかも、3枚って言った
そうですか。通常4枚らしいですから、やっぱりケチ?^^;

>スパゲッティが熱すぎて手を火傷した
思わず噴き出しちゃいました...... 
by euridice (2006-02-07 21:14) 

Sardanapalus

euridiceさん>
ただいまです!寒いですね~。普段は大したことの無い地元でこんなに寒いなんて、初めての体験です(>_<)

>通常4枚
ですよね、クワトロ・ドッティエですもんね。う~ん、良く思い出してみると言葉では4枚(クワトロ)だったと思いますけど、でも投げ渡してたのは3枚だった気がします(笑)一気に2枚投げて無い限りは…。
by Sardanapalus (2006-02-07 22:53) 

Belle de Nuit

お帰りなさい! (^^)  
早々のレビュー、楽しく読ませて頂きました。
キーンリーサイド、やっぱり素晴らしかったみたいですね〜。
相変わらずいろいろと細かく演技していそうで、ご覧になったSardanapalうsさんが本当に羨ましいです。
>真剣なキャッチボールしたり
あはは。ここはぜひ見てみたかったです。

舞台裏話も笑いました。
人のサインの上にサインしてどうするのよ、キーンリーサイドさん(^^;;。
それにしても、熱々のスパゲッティが本番の舞台に出るあたり、バイエルン歌劇場のオペレーションの良さが光りますね(笑)。そして、熱いのを我慢して手づかみで食べかつ歌う歌手の「根性」にも、頭が下がります(^^)。
by Belle de Nuit (2006-02-07 23:51) 

agojun55

アリソンのスザンンを聴きたかったけど、こんなところに出稼にいっているとは!
HMVにキーンリサイドのフィガロの結婚のスケベ公爵役のが38ポンドが28ポンドバーゲンでありましよ。

いつもどってくるのですか?
あまりに忙しく忘れていましたが:
”ゲオルゲとの2ショット”を送りたいとおもいますが、でどこに送ったら好いでしょうか?
by agojun55 (2006-02-09 20:02) 

Sardanapalus

Belle de Nuitさん>
ただいまです~。うん本当に、私はこれとマクヴィカーの演出のジョヴァンニを見れて幸せ者です!

>>真剣なキャッチボール
ここは本当に可笑しかったですよ~。本人たちが一番楽しんでましたね。で、エルヴィーラが乱入してきて、ジョヴァンニは「折角楽しんでたのに何だよ~」って大の字になっちゃって、レポレッロはあたふたと身づくろいという状況でした(笑)

>バイエルン歌劇場のオペレーションの良さ
私も聞いて驚きました。ああいうのは冷えたようなのを適当に出すと思っていたので…。熱い素振りを見せなかったのは確かに根性(笑)

agojun55さん>
>アリソン
う~ん、演技は悪くないと思いますが、ちょっと年齢的にあのフィガロの恋人では厳しいかと(^_^;)何と、彼女だけが94年プレミアのこのプロダクションの初演キャストだそうですよ。

>キーンリサイドのフィガロの結婚
もちろん持ってますよ~♪各音楽賞を総なめで話題になったこのヤーコプス指揮のCD、キーンリーサイドの伯爵に限らずかなりのお気に入りです。この録音もROHの新演出のように「シリアス」路線ですけど、生き生きしていて何度でも聞けますね。
by Sardanapalus (2006-02-10 02:29) 

Belle de Nuit

ドン・ジョヴァンニに登場するワインの記事でこちらの記事をリンクさせて頂きました。よろしくお願いします(私の記事はTBできるような内容ではないかも?なので、すみません^^;;)
http://b-memorandum.cocolog-nifty.com/blog/2006/02/post_f0c3.html
by Belle de Nuit (2006-02-18 13:28) 

Sardanapalus

わ~面白い記事をありがとうございます。早速読ませていただきました。むむむ、マルツィミーノが飲みたくなってきましたよー!
by Sardanapalus (2006-02-18 15:32) 

keyaki

映画監督がオペラの演出、、ということでリストをつくりました。
この方、映画よりオペラの演出の方がメインのような感じもしますが、リストアップしてますので、リンクさせていただいてもいいでしょうか、といいながらリンクしちゃいましたけど。
ところで、手づかみでスパゲッティを食べている写真があったような気がしたのですが、この記事しか捜し出せませんでした。もうひとつ別記事があるのかしら?
by keyaki (2006-08-17 14:05) 

Sardanapalus

リンクありがとうございます~。
>リンクさせていただいてもいいでしょうか、といいながらリンクしちゃいましたけど
いつでもリンクフリーですので、ご自由にどうぞどうぞ~♪

>手づかみでスパゲッティを食べている写真
は、予告編なので、この前の記事の一番下にあります(笑)念のためURLも貼っておきます。
http://blog.so-net.ne.jp/sardanapalus/2006-02-01
by Sardanapalus (2006-08-17 17:49) 

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