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ROH来日公演「マクベス」 [オペラ(実演)]

英国ロイヤル・オペラ5年ぶりの来日公演に行ってきました。5年前は「椿姫」「マノン」とどちらも破滅していく女性が主演のオペラでしたが、今回はヴェルディの「マクベス」とモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」で、「どちらも超自然の力との邂逅を描く」(パッパーノ)話で、「自らの運命を自ら切り開こうとした男」(キーンリーサイド)が主演です。まずは9月12日~21日まで4度公演を行ったマクベスについて記事にしたいと思います。

私が見に行ったのは、初日(12日)と千秋楽(21日)の2回。実は、DVDになっている2011年の公演と歌手もほぼ一緒、演出も一緒ということで、あまり気分は上がらずに当日を迎えました。主役のキーンリーサイドも昨年末からずっとキャンセルしていて舞台は久しぶりだし、キャンセルせず来日してくれただけでもいいか、程度に思っていたのです。実際には、久しぶりにオペラで大当たりの公演となりました。

キーンリーサイドのマクベスはロンドンでも見ていますが、今回の公演の方が、マクベスの人物像がよりはっきりと伝わってくる歌唱と演技でした。歌唱面では、特に初日は重唱部分などでセーブしていましたが、Pieta, rispetto, amoreから最期のモノローグまでは、客席が引き込まれる歌唱で、もぎとった王権に必死にしがみつこうとする男の空しい姿が浮かび上がりました。また、初日は久しぶりの舞台とあってか控えめだったのですが、千秋楽はあちらこちらで小心者マクベスの心の動きを表すような演技を見せてくれて、流石のひとこと。最期のマクダフとの一騎打ちの殺陣とか、その前のバーナムの森が動く場面で逃げ出す配下の兵士たちを蹴り飛ばすところなど、久しぶりにキーンリーサイドらしい動きが見れて楽しかったです。他の日に行った友人に聞くと、フィナーレは毎回全く違う演技だったようで、共演者は合わせるのが大変だったことでしょう。ヴェルディのマクベスとしては、もっとどかーんと押し出しの強い(ある意味筋肉バカみたいな)イメージがあるかもしれませんが、シェイクスピアのマクベスは、野心はあるけれど実は繊細で小心者なのですよね。シェイクスピアも含めて、今まで見た「マクベス」の中で一番納得のいくマクベス像でした。(雑談:今回、役のために髭もじゃで来日したキーンリーサイドですが、3公演目の前に少し整えて、更に千秋楽後に会場を後にするときには既にすっきり剃っていました。髭面しか知らない人は「あんた誰?」状態です。そういえばロンドンの時も髭を嫌がっていましたが、本当に嫌いなんですね~^_^;)※千秋楽のステージドアの様子は、下方のキャスト表の下にあるShavaさんのアルバムをご覧ください。

オペラではマクベスより重要な役、マクベス夫人は、ロンドンでも好評だったリュドミラ・モナスティルスカ。彼女はロンドンでマクベス夫人を歌った後に少し痩せたときいていたのですが、日本に来たらリバウンドしていてガッカリ。しかし、歌唱はロンドンのときよりも表現力が増していて、弱音の美しさも素晴らしかったです。初日は少し安全運転な部分がありましたが、千秋楽は本領発揮といった感じで何の心配もなく聞いていられました。冒頭の勢いのあるアリアも良かったですが、夢遊病の場面での弱音が強く印象に残りました。

マクベスが王権を握ってから最初に犠牲になるバンクォー役ライモンド・アチェトは、見せ場のアリアで立派な歌唱を聞かせてくれました。マクベスに反抗して亡命するマクダフは、テオドール・イリンカイ。彼は後半にアリアを一つ歌うだけ、という役だからか東京を堪能していたようで、ハチ公とのツーショットや動物園や野草の写真をたくさんFacebookにアップしていました。ちょい役ですが、夢遊病の場面で登場するマクベス夫人の侍女と医師は、どちらもロイヤル・オペラのヤング・アーティストプログラム出身のアヌーシュ・ホヴァニシアンとジフーン・キムが丁寧な歌唱を聞かせてくれました。二人ともこんな小さい役にはもったいないです。

今回の公演で一番うれしい驚きだったのは、オーケストラと合唱の気合がものすごかったことです。ロンドンでもこんなに集中した演奏を聞いたことは1度か2度くらい、というレベルで、ロイヤル・オペラの比で最高の出来だったと思います。アントニオ・パッパーノの指揮は、大好きなオペラということで細かい部分まで考えられていました。それでいて、歌手や合唱とのバランスやタイミング調整などにも気を配っていて、自分の解釈で突っ走るだけでなく歌手やオケメンバー全員と作り上げていく作品としての全体像を見据えた指揮でした。

フィリダ・ロイドの演出は、昔ながらの小技を各所に使ったストーリーに忠実なもので、この日本公演でも再演用の演出家がきっちり転換部分などを整えていて、ストレスなく見ていられました。ロイヤル・オペラのこういうところが大好きです。セットは少なめで省エネな部分もありますが、ちゃんと場面転換してくれるので何が起こっているのかよく分かります。魔女たちがターバンに一文字眉なのに、マクベス夫人はキモノドレス、マクベス達武将は柔道着というかジェダイというか、なヘンテコアジアミックスな衣装も最初は??ですが、見慣れればそれこそスターウォーズのような超現実の世界の話として楽しめます。

全体として、非常に完成度の高い、充実した公演でした。こういう公演があるから、オペラに行くのをやめられないんですよね~。このレベルであれば、いつでもまた来日公演していただきたいです。



マクベス
Macbeth

9月12、15、18、21日
東京文化会館
Tokyo Bunka Kaikan

指揮 アントニオ・パッパーノ
Conductor: Antonio Pappano
演出 フィリダ・ロイド
Director: Phyllida Lloyd
再演監督 ダニエル・ドーナー
Revival: Director Daniel Dooner

マクベス サイモン・キーンリーサイド
Macbeth: Simon Keenlyside
マクベス夫人 リュドミラ・モナスティルスカ
Lady Macbeth: Liudmyla Monastyrska
バンクォー ライモンド・アチェト
Banquo: Raymond Aceto
マクダフ テオドール・イリンカイ
Macduff: Teodor Ilincai
マルコム サミュエル・サッカー
Malcolm: Samuel Sakker
医師 ジフーン・キム
Doctor: Jihoon Kim
夫人の侍女 アヌーシュ・ホヴァニシアン
Lady in Waiting: Anush Hovhannisyan

ロイヤル・オペラ合唱団 / ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
Royal Opera Chorus / Orchestra of the Royal Opera House

Shevaさんのステージドア写真アルバム


※今回の来日公演と同じ演出のBlu-rayはこちら




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コメント 2

Kew Gardens

充実したツアーでしたね。 ハラハラドキドキする部分もありましたが、オケ・合唱と一体となったストーリー作りや、2011年のロンドン公演よりも、読み込みが深くなったと思わせる所があり、私も非常に完成度の高い公演だったと思いました。

>ロンドンでもこんなに集中した演奏を聞いたことは1度か2度くらい
ですね。 これを経験してしまうと、また!と思い、通ってしまうという悪循環です(汗)

2011年の時同様、ご一緒できて楽しかったです。 また、こういう機会にご一緒したいです。
by Kew Gardens (2015-09-27 01:23) 

Sardanapalus

Kew Gardensさん>
コメントありがとうございます。本当に、こういう公演を聞いてしまうと、2匹目のドジョウを狙ってしまいますね~。私も今回は東京でご一緒できて楽しかったです!次にご一緒できるのはいつでしょうね
by Sardanapalus (2015-09-28 22:23) 

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