サンフランシスコのリサイタルに向けてのインタビュー&BBC Radio 4: Tales from the Stave [Keenlyside]
今月末にアメリカのサンフランシスコでサイモン・キーンリーサイドのリサイタルが行われますが、それに先立ってSan Francisco Classical Voiceのページにインタビューが載りました。かなりカジュアルな雰囲気のインタビューで、内容もヨセミテ国立公園には何度も行っているとか、小さい子供がいるとなかなか大自然の中に冒険に行けなくてストレスがたまるとか、最近は奥さんの仕事の都合もあってなかなか帰れないウェールズにある農場に、高価だけど美しい日本の楓を植えた話とか、リサイタルとは直接関係のない話が満載です(^^)
もちろん、今回の英語歌曲のプログラムのことと、ピアノ伴奏のマルティノーとの25年に渡る関係についても語っています。また、オペラやクラシック音楽が若者の間に広まっていると思うか、という質問に対しては、レコーディング技術の進歩で素晴らしい録音の数々が入手可能だし、ジュリアード音楽院や世界中に才能豊かな若手音楽家が大勢いる、と言いながらも、デビュー当時も今も客席を見れば白髪の海(^^)なので、魅力を感じるまでに時間を要する芸術もあるし、それを支えるのに十分なだけのファンがいてくれればいいんだ、と現実的な回答をしています。
◆Baritone Simon Keenlyside: Force of Nature
それから、キーンリーサイドは10月18日に放送されたBBC Radio 4のTales of the Staveという番組にゲスト出演しました。この番組は、有名な作品の自筆楽譜をプレゼンターの推理小説作家フランシス・ファイフィールドと専門家たちが見ながら作品の背景などについて討論する、という非常にマニアックな内容なのですが、このシーズンの第1回目の放送で取り上げたのはモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」でした。そこで、ドン・ジョヴァンニ役として定評のあるキーンリーサイドもゲストに招かれたということのようです。30分の番組ですが、最初から最後までオタクな話題で盛り上がっています。Radio4のウェブページ上でオンデマンドで聴けますので、「ドン・ジョヴァンニ」好きな方は下のリンク先からぜひ聞いてみてください。
序曲はオープニングナイトの前夜に徹夜で書かれたので筆跡が非常に荒いとか、紙の上にコーヒーカップの跡のようなしみ(多分インク壺)があるとか、カタログアリアの最後の繰り返し部分は書き直されているとか、楽譜の途中で紙の質が変わっているとか、「ドン・ジョヴァンニ」好きなら一聴の価値のある面白い内容です。特に、もともと作曲された音と実際に上演された(されている)音に違いがある箇所や、速度指定やもともとの歌詞など自筆譜でしか分からない部分で盛り上がる専門家たちの話を聞いているだけで、オペラへの理解がより深まったように思えます。例えば、ジョヴァンニの最期の場面の「いやだ」の2つの音は序曲の冒頭の2つの和音と同じとか、気にしたことがなかったので面白い指摘でした。
他にも、おそらくエピローグがカットされたウィーン版のために、ジョヴァンニが「アー!」と最期の叫び声をあげる前にドンナ・アンナ、ドンナ・エルヴィーラ、ドン・オッターヴィオが「アー!」と叫ぶように作曲されていたのに、後から削除されているというのも面白いです。専門家たちも指摘していますが、ただこの1音を歌うためだけにこの3人が舞台上に登場する様子を想像するとちょっと笑ってしまいます。番組の最後は、キーンリーサイドが「触れることができるだけで嬉しいし、名誉なことだ」という楽譜の上に左手(利き手)を載せて「こんなの馬鹿らしいと思われるかもしれないし、こうして触れるだけじゃ何も変わらないと思うだろうけど、でも変わるのさ」と言って終わります。こういう、専門家たちの愛のあふれる討論は聞いていてこちらまで楽しくなってきますね。(日本の伝統芸能なんかも、こういう番組を作って紹介できればいいんじゃないでしょうか。)
◆Tales from the Stave: Series 7 Episode 1 "Don Giovanni"
もちろん、今回の英語歌曲のプログラムのことと、ピアノ伴奏のマルティノーとの25年に渡る関係についても語っています。また、オペラやクラシック音楽が若者の間に広まっていると思うか、という質問に対しては、レコーディング技術の進歩で素晴らしい録音の数々が入手可能だし、ジュリアード音楽院や世界中に才能豊かな若手音楽家が大勢いる、と言いながらも、デビュー当時も今も客席を見れば白髪の海(^^)なので、魅力を感じるまでに時間を要する芸術もあるし、それを支えるのに十分なだけのファンがいてくれればいいんだ、と現実的な回答をしています。
◆Baritone Simon Keenlyside: Force of Nature
それから、キーンリーサイドは10月18日に放送されたBBC Radio 4のTales of the Staveという番組にゲスト出演しました。この番組は、有名な作品の自筆楽譜をプレゼンターの推理小説作家フランシス・ファイフィールドと専門家たちが見ながら作品の背景などについて討論する、という非常にマニアックな内容なのですが、このシーズンの第1回目の放送で取り上げたのはモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」でした。そこで、ドン・ジョヴァンニ役として定評のあるキーンリーサイドもゲストに招かれたということのようです。30分の番組ですが、最初から最後までオタクな話題で盛り上がっています。Radio4のウェブページ上でオンデマンドで聴けますので、「ドン・ジョヴァンニ」好きな方は下のリンク先からぜひ聞いてみてください。
序曲はオープニングナイトの前夜に徹夜で書かれたので筆跡が非常に荒いとか、紙の上にコーヒーカップの跡のようなしみ(多分インク壺)があるとか、カタログアリアの最後の繰り返し部分は書き直されているとか、楽譜の途中で紙の質が変わっているとか、「ドン・ジョヴァンニ」好きなら一聴の価値のある面白い内容です。特に、もともと作曲された音と実際に上演された(されている)音に違いがある箇所や、速度指定やもともとの歌詞など自筆譜でしか分からない部分で盛り上がる専門家たちの話を聞いているだけで、オペラへの理解がより深まったように思えます。例えば、ジョヴァンニの最期の場面の「いやだ」の2つの音は序曲の冒頭の2つの和音と同じとか、気にしたことがなかったので面白い指摘でした。
他にも、おそらくエピローグがカットされたウィーン版のために、ジョヴァンニが「アー!」と最期の叫び声をあげる前にドンナ・アンナ、ドンナ・エルヴィーラ、ドン・オッターヴィオが「アー!」と叫ぶように作曲されていたのに、後から削除されているというのも面白いです。専門家たちも指摘していますが、ただこの1音を歌うためだけにこの3人が舞台上に登場する様子を想像するとちょっと笑ってしまいます。番組の最後は、キーンリーサイドが「触れることができるだけで嬉しいし、名誉なことだ」という楽譜の上に左手(利き手)を載せて「こんなの馬鹿らしいと思われるかもしれないし、こうして触れるだけじゃ何も変わらないと思うだろうけど、でも変わるのさ」と言って終わります。こういう、専門家たちの愛のあふれる討論は聞いていてこちらまで楽しくなってきますね。(日本の伝統芸能なんかも、こういう番組を作って紹介できればいいんじゃないでしょうか。)
◆Tales from the Stave: Series 7 Episode 1 "Don Giovanni"
グリゴーロも11月6日からロサンゼルスで「ロメオとジュリエット」ですよ...ロスとサンフランシスコって遠いんでしょうけど、同じ州ですね。
>リサイタルとは直接関係のない話が満載です(^^)
グリゴーロがドイツのクラシック専門雑誌"crescendo"のインタビューで、ポルシェのエンジンの話しばかりするので(水を向ける方にも責任あると思いますけど)、ついにインタビュアーが、「あの....クラシック音楽の雑誌なんですけど....」(笑
ところで、galahadさんのブログに「志村けん並の老人演技」が見られるサイトをリンクしましたので、行ってみてください。
志村けんは、バカ殿くらいしかしらないんですが、どんな老人演技なんでしょう.....見てみたい.....
by keyaki (2011-10-24 14:58)
keyakiさん>
>ロスとサンフランシスコって遠いんでしょうけど、同じ州
そうなんですよね。直線距離はかなり離れているそうですけど、地図で見ると縮尺の関係か、近く感じてしまいます(笑)
>>リサイタルとは直接関係のない話
>ポルシェのエンジンの話しばかり
ははっ、確かにこういう展開はインタビュアーが趣味の話をさせたのが原因ですよね。キーンリーサイドは、ラジオのゲストで大王イカの巨大な足が漁師の網にかかった話を延々としていたことがあります(^_^;)そんなことに興味があるのはあなただけですよ~~。
>「志村けん並の老人演技」が見られるサイトをリンク
ありがとうございます!!さっそく見てみました。あの、杖をつく手が震えているところとか、確かに志村けんの老人演技を彷彿とさせます…でも、映像で見る限り違和感はないですね。
by Sardanapalus (2011-10-24 19:58)
別にDGのおたくではないですが、おもしろいかったですね、Radio 4の番組。 興味を共有する人たちの生き生きとした会話に引き込まれました。30分じゃ、短すぎじゃない?と思ったくらい。編集されたヴァージョンだと思いますが、全編ききたい位でした。 Keenlysideも自分の興味があることだからでしょう、すごくのめり込んでいる様子が音だけでも伝わってきましたね。 大王イカとか大サンショウオの話じゃなくても、盛り上がることがあるのを知って、ほっとしました。
それにしても、Facsimileでもオリジナルと違うところがあるなんて、びっくりしました。 また、教会や、検閲(権力者)に対する抵抗が楽譜にもみてとれるなんて、奥深いですね。 次回DGを聴く時には注意してしまいます。
順番逆ですが、海外発行だからでしょうか、かなりリラックスしていますね、このインタビュー記事。 それにしても、文脈からいって
Appalling award ceremony = Gramophone awardとなりません? 大丈夫かなぁ、こんなこといって。
ところで、ロスとサンフランって、よっぽどの低予算旅行か、時間が有り余る人以外は、移動には飛行機使う距離です。
by Kew Gardens (2011-10-24 22:10)
Kew Gardensさん>
さすがのBBC、といった番組ですよね。とても面白かったので、今後も興味のある作品の回はチェックして聞いてみようと思います。
>Keenlyside
>大王イカとか大サンショウオの話じゃなくても、盛り上がることがあるのを知って、ほっとしました。
ええ、私も音楽の話で盛り上がっているのを聞いてちょっとほっとしました(^^)
>Appalling award ceremony = Gramophone award
そのようですね~。確かにきわどい発言ですけど、キーンリーサイドにしてみたらどの授賞式もappallingなんじゃないかと思います(苦笑)
>ロスとサンフランって、よっぽどの低予算旅行か、時間が有り余る人以外は、移動には飛行機
ですよねー。
by Sardanapalus (2011-10-24 23:06)
Sardaさんありがとうございます。simon いいインタビューですね。彼はいつも本音で皮肉屋でプラクティカルですね。賢すぎる 。sardanapalusさんに全部訳してもらいたいな。そんな暇ないでしょうけど。興味深い内容でした。イカの方はまだ見てません。
by Sheva (2011-10-25 07:58)
Shevaさん>
>いいインタビューですね
インタビュアーが結構最初から脱線しているのが楽しいですよね。近況を知れて、ファンには嬉しい内容でした。全部訳すのは時間がなくて…手抜きですみません。
>イカの方はまだ
あ、今回のRadio 4の番組内ではイカの話はしていませんよ~(^^)音楽の(「ドン・ジョヴァンニ」の)ことだけで構成されている番組です。ちょっと会話の速度が速めですけど、和気あいあいと楽しい雰囲気ですのでぜひ聞いてみてください。
by Sardanapalus (2011-10-25 15:28)
ドンジョオタトーク、楽しませていただきました。
「まにゅすくりぷと」と言われるだけでわくわくするのに、そこにドンジョ歌いが手を触れているなんて…その光景を想像すると…ステキ!
モーツァルトの時代は、演奏する場所や歌手によって楽譜の変更が激しかったそうですし、書き込みから読みとれるところについて話はどんどんふくらむんでしょうね~。
他の話も聞いてみたいな!
by galahad (2011-10-26 21:36)
galahadさん>
>ドンジョオタトーク
皆さん自筆譜を前にして興奮している様子がありありで、聞いているこちらまでテンションが上がりますね(笑)自分も「ドン・ジョヴァンニ」大好きなので、もう何度もリピートしちゃいました!次回の放送は、ヘンデルの「王宮の花火の音楽」について語るようです。これも面白そう~。
by Sardanapalus (2011-10-27 10:42)
ROHのサイトで発見。 2月からのDa Ponte cycleのDon G宣伝用に、昔のTerfelとKeenlysideのInterview VideoがYouTubeにあがっています。 それぞれ2002年、2008年というクレジットがはいっていますが、Keenlysideが異常に長い髪です。 2008年にこんな長い髪型していたことがあったなんて記憶にないですけれど、Sardanapalusさん、ご存じですか?
http://www.youtube.com/watch?v=HJz7oUwSbvg&feature=relmfu
by Kew Gardens (2011-12-15 22:49)
Kew Gardensさん>
そうそう、何度か使いまわされているインタビュー映像がまた登場しましたね。そう、キーンリーサイドが今からは考えられない髪型してますよね~。これは、実はキーンリーサイドも2002年当時の映像なんです(^^)この演出の「ドン・ジョヴァンニ」が2002年に初演されたとき、AキャストがターフェルでBキャストがキーンリーサイドだったんですよ。その後DVDになっている2008年の公演でもキーンリーサイドがジョヴァンニ歌いましたから、テロップが間違いではないですけどね。
by Sardanapalus (2011-12-20 20:09)