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オペラ「エフゲニー・オネーギン」@ロイヤル・オペラ・ハウス [オペラ(実演)]


1週間のロンドン滞在でしたが、何より楽しみにしていたのはオペラ「エフゲニー・オネーギン(Eugene Onegin)」を見ることでした。今回の公演は、Royal Opera Houseの芸術監督に就任したカスパー・ホールテン(Kasper Holten)の新演出であることが注目の的でしたが、個人的にはオネーギン、タチアーナ、レンスキーに好みの歌手がキャスティングされていることが一番のポイントでした。結論として、見に行って本当に良かったと思える充実した公演だったと思います。

大いに期待していた歌手陣ですが、注目の3人に加えて、オルガも役柄にはまっていて◎でした。タチアーナを歌ったクラッシミラ・ストヤノヴァは見た目がおばさん、などと言われてましたがそんなことは元から分かっているし、長いアリアでも息切れしない素敵な歌声をきっちり聞かせてくれましたので、私は何の文句もありません。強いて言えばもう少し演技に柔軟性があってもいいかと思いますが、タチアーナとしては抑え目な演技が好感触でした。やっとまともな演出のオネーギンを歌ったサイモン・キーンリーサイドは、当然でしょうけど初役のとき以上にロシア語の歌唱が板についており、どんな内容を語っているのかが言語の壁を越えてしっかりと伝わってきました。オネーギンってこんなに素敵なメロディラインもらっていましたっけ?と思う場面もあちこちあり、このオペラの新たな音楽的魅力を発見できたと思います。役柄としても、ホールテンがリハーサルの動画で語っていたような「自分は人生経験があると思い込んでいるが実はまだ青二才」なオネーギン像を流石の演技力で表現していました。タチアーナに手紙を返す場面、レンスキーとの決闘の場面、外国を放浪しながら投げやりな女性関係を続ける場面(グレーミン公爵でのパーティのポロネーズ部分)など、オネーギン本来の(と思われる)ナイーブな性質が見え隠れしながらも、社会規範から外れた行動をとってしまう自分への嫌悪感や後悔が感じられて、演出家の指示をかなりしっかり表現できていたのではと思います。基本的に、こういう人生の意味なんかを悶々と悩んでいるタイプには全く感情移入できないのですが、こういう役作りをされると「意外といい人かもね」などとつい同情してしまうので困ってしまいます(^_^;)

レンスキー役のパヴォル・ブレスリクは金髪イケメンなので(笑)一度は生で聞きたいと思っていた歌手です。彼の声質から、きっとレンスキーははまり役だと思っていましたが、本当に素晴らしいレンスキーでした。単に歌い上げるだけでなく、オルガへの真摯に想いやオネーギンへの友情と羨望、嫉妬などの心の動きが直球で伝わってくる歌唱と演技で、すっかりファンになってしまいました。レンスキーにこんなに感情移入できたのは初めてです。そして、もう一人素敵だな、と感じたのがオルガ役のエレーナ・マキシモワです。今回初めて聞く歌手ですが、演技も非常に上手くて天真爛漫なオルガの性格をよく表していました。ブレスリクのレンスキーともお似合いの華やかな2人で、どちらかと言えば静的なタチアナとオネーギンのペアといい対比ができていました。

批評家の間では賛否両論の演出ですが、全体的には悪くないと思います。ストーリーを変えてしまうような読み替えも無いですし、衣装やセットもすっきりとしていて心穏やかに見ていられます。この演出では、舞台前面を利用してオネーギンとタチアーナの心象風景を表現しているのですが、ひとつのイベントが終わるたびにそれを連想させる物が残されていくというのも、ちょっと説明的過ぎる面もありますが、そのイベントが主人公2人に与えた影響が視覚的に分かりやすかったです。また、登場人物たちに細かい動きが着けられていて、それぞれの性格を音楽以外の部分で補っていたのも、舞台作品としては面白かったです。レンスキーが大げさに愛の詩をオルガにささげている間、退屈になったオネーギンがタチアーナに耳打ちして2人でそそくさとその場から逃げ出してしまったり、レンスキーが気の乗らないオネーギンを無理やりタチアーナの前に引きずり出したり、といった「あるある」と同感できる行動のおかげで人物達に親近感を感じられました。ただ、ホールテンがこの作品(原作とオペラ)の大ファンということもあってか、少々彼の解釈を押し付けすぎているような部分がいくつかあり、そこが賛否の分かれ目になっているように思いました。ちなみに、私がどうしてもこの演出で賛同できなかったのは、最後のタチアーナがオネーギンを振り切る場面にグレーミンが同席していることです!ここは絶対に2人きりでないと駄目でしょう!!他に違和感を感じたのは、出会った当時のオネーギンとタチアーナという設定の若いダンサー/俳優が登場するのですが、その2人への振付があまり魅力的でなく、時には失笑を買うようなものだった点です。コンセプトとして、全編を通してオネーギンとタチアーナが過去を回想するという設定は面白いと思ったので、変な振付で雰囲気が壊れてしまって残念でした。そういえば、オネーギンがタチアーナに迫る最後の場面で繰り広げられる回想(または2人の想像)の中で、この若い2人がじゃれあってキスをし、そのまま寄り添って現実のオネーギンとタチアーナの前を歩いていくのですが…これはホールテンの妄想が入りすぎでは?と感じました。おそらく、精神的に2人は結ばれていると言いたいのでしょうが、オネーギンって、自分のことが中心なのでそこまでタチアーナのことを想っていないと思うんですよね~。

それでも、ウィーンで見た寒々しい氷づけの演出よりは楽しめましたし、歌手も揃っているのでDVDとして発売されるのが楽しみです。その前に、2月26日にはドイツのラジオ局BR Klassikで放送されるようですし、BBCでもテレビ放送(4月)ラジオ放送(6月1日)が予定されています。劇場内でも連休と重なった日本やフランスなどのイギリス国外からの聴衆も多く、完売となった劇場内は普段のRoyal Opera Houseより心なしか華やかに感じられました。相変わらずカーテンコールはあっさり目でしたが(笑)Youtube上に、そのカーテンコールの動画がいくつかアップされていますので以下に紹介しておきます。その他、関連リンクもその下に入れておきますので、興味のある方はぜひご覧ください。

2/1(リハーサル)


2/9


2/11(おそらく)


2/20



Eugene Onegin

Conductor: Robin Ticciati
Director: Kasper Holten

Tatyana: Krassimira Stoyanova
Olga: Elena Maximova
Eugene Onegin: Simon Keenlyside
Lensky: Pavol Breslik
Prince Gremin: Peter Rose
Larina: Diana Montague
Filipjewna: Kathleen Wilkinson
Monsieur Triquet: Christophe Mortagne


【各種リンク】
◆Royal Opera House Eugene Oneginページ(イメージ動画、舞台写真など)
◆Simonkeenlyside.info Eugene Oneginページ(リハーサル写真、舞台写真、批評)

登場人物紹介

合唱の役割(リハーサル風景)

Royal Opera Liveでのリハーサルハイライト

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コメント 2

kew Gardens

Saldanapulsさんは、この演出お気に召したのね。 私は、全くNG。 OlgaとかOneginの人物描写がここまで原作やその時代背景と逸脱しているのであれば、中途半端に舞台や衣裳をオーソドックスなものにしないで、時代 もかえて、ついでにロシア語以外でやってくれたほうがエンターテーメントとして成立するのじゃないかと思いました。 Tchaikovskyのリブレットはお見事なまでにPushkinの原作に忠実なのだから。 徹底的にHolten版にしてもらったほうが、潔いと思います。 ロシア語のディクションがさらによくなって、努力したのがよくわかるKeenlysideには申し訳ないですけれど。 唯一良いなと思ったのはTatyanaとOneginが昔を振り返るような雰囲気をだしていたところでしょうか。  演技や歌で若い雰囲気をだしていても、StoyanovaもKeenlysideも立派なアラフィフだから(原作では、最後のシーンでも、Tatyanaは20代、Oneginは30代ですけれどね)Oneginは出だし20代でも、実際のところ恋愛含めてやることやりつくして、精神的には人生に倦んでいる中年ですが。 だといっても、あのダンサーはやめてほしかったです。

>私がどうしてもこの演出で賛同できなかったのは、….グレーミンが同席していることです!
全く同感! なんか、一挙に安っぽくなりませんでした?

>オネーギンって、自分のことが中心なのでそこまでタチアーナのことを想っていないと
そうですよね。 私も彼が昔を回顧して、それがTatyanaのことだとは考えにくく。 というより、TatyanaってOneginが失ってしまった、かつてくだらないと思っていたことや物の象徴じゃないかしら。 地主の娘がTatyanaという名前というところからして、単なる若い女性ではないと思います。

ところで、BBCのラジオ放送はライブストリーミングがあった20日のものでしょうか? この日はStoyanovaが16日よりよかったのですが、オケが荒れ気味。 Keenlysideも16日のほうが良かったと思います。 映像はう~んなのですが、音楽はよかったですものね。16日の公演の録音のようですし、BRKlassik 頑張って聞こうかな。

by kew Gardens (2013-02-23 22:50) 

Sardanapalus

Kew GardensさんはHolten版オネーギンは駄目だったのですね。私は、元々原作に全く感情移入できないので登場人物のキャラ設定については別にどーでもいいのですが(^^)、特にオネーギンを「実はいい奴」的な解釈ができるように性格付けしていたのと、最後の別れの場面でグレーミンを同席させたのは、仰るとおり結論がSoap Operaのようにお軽くなってしまったかな、と思います。上手くまとめようとしてロマンティックにしすぎというか。

>ロシア語のディクションがさらによくなって、努力したのがよくわかるKeenlyside
あ、やっぱりディクション改善してるんですね。気のせいじゃなくて良かった。ROHのロシア語コーチも優秀らしいですけど、きっと努力したんですね。そういえば、Intermezzoさんのブログでも、皆ロシア語は合格、と書かれていましたね。

>TatyanaってOneginが失ってしまった、かつてくだらないと思っていたことや物の象徴
きっとそうですね。そして、万が一タチアーナがオネーギンを受け入れたとしても、きっとオネーギンは自分で言っているようにすぐにその生活にも飽きてしまうことでしょうし。原作では強く漂う、オネーギンのこういったどうしようもないアウトロー的な要素はきれいに除外されてしまっていましたね。ま、オペラとしてはこういう終わり方でもいいのかも知れませんが。

ラジオ放送ですが、16日の公演がラジオ用に収録され、それを各局に配るのではないかと思います。だからきっとBBCも16日の音源です。
by Sardanapalus (2013-02-24 01:11) 

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